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基調講演 講師インタビュー

印刷用ページを表示する 更新日:2022年3月7日更新
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2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、国や企業ではさまざまな取り組みが実施されています。
研究開発の最新動向に焦点を当て、二酸化炭素と水素から人工的に作られる合成燃料の開発や動向についてお伺いしました。


 

新たなカーボンニュートラル(CN=温室効果ガス排出量実質ゼロ)燃料として液体合成燃料が注目されつつあります。どのようなものですか。​

里川氏:二酸化炭素(CO2)と水素からつくる炭化水素燃料の人工ガソリンで、言い換えれば「山から石油をつくる」技術だ。エネルギー密度が高く貯蔵性、輸送性などに優れている。燃焼時にCO2を出すが、大気中に放出されたCO2を集めて原料とし、再生可能エネルギーで製造した水素を使えば循環型エネルギーとして脱炭素が実現する。容易に備蓄ができ、既存の石油精製インフラやサプライチェーンも利用できる。CNに向け乗用車はEV(電気自動車)に変わっても、バスやトラック、建設機械などの大型車のEV化は難しく、ここに内燃機関がそのまま使える液体合成燃料の役割がある。また石油精製の副生成物である潤滑油なども製造できる。

全く新しい技術ですか。​

里川氏画像1

里川氏:CO2と水素と反応させて液体燃料をつくる技術は、100年前にドイツがフィッシャー・トロプシュ(FT)法として開発した。第2次世界大戦前には、石炭をガス化して原料とする人造石油の精製技術は実用化されていた。ただ化石燃料由来の原料を使っていたのでCNではない。今でも特殊な潤滑油つくるFTプラントは世界に何基かあるが、石油を精製するより困難で経済的に成立したところはない。この2点は今も変わらない課題だ。

 

CN燃料を実現するにはどうような取り組みが必要ですか。​

里川氏画像2

里川氏:一般的な考え方では、CO2は大気中から直接回収したり、工場から排出されたものを分離回収し濃縮して使う。水素は太陽光や風力などの再生可能エネルギー電力を使って水の電気分解を行い、製造時にCO2を出さないグリーン水素を使う。だが、空気中からCO2を直接回収するDAC※技術は非常に難しくコストがかかる。水素も再エネ価格が大きく下がることが前提だ。前段階として私はバイオマスに着目している。バイオマスの光合成は、大気からCO2を集めてグリーン水素をつくるのと同じこと。CNの実現に向けて、まずは再エネ電気や水素の直接利用やバイオマス燃料を普及させ、その上で足らない部分を液体合成燃料で考えるべきだ。これまで一次エネルギーは化石燃料だったが、CNにむけては再エネ電力がスタートになる。電力会社が最終製品として販売する再エネ電力を原料にして液体合成燃料をつくっても、経済的には合わない。

* DAC: Direct Air Capture

CO2もバイオマスから回収できますか。​

里川氏:十分に可能だ。日本にはゴミ燃やす文化があり焼却炉が沢山ある。ゴミは化石燃料を使わなくても必ず出るもので、現時点でも75%はバイオ由来。今後、食品容器や包装材もバイオ由来が進み一般ゴミのバイオマス比率は上がる。焼却炉に濃縮装置をつければDACを行わなくてもCO2が集められる。まさにカーボンニュートラルCO2だ。工場から排出されるCO2を回収する方法もあるが、工場はいかにCO2を出さないかの方向で考えるべきだ。産業界からは「液体合成燃料はいつ完成し、いくらで実現でき、どのくらい供給できるのか?」とすぐに聞かれる。残念ながらそんな簡単な話ではない。どれだけの量がつくれるのかもわからない。液体合成燃料に取り組む意義は、山から石油をつくる新しい産業を各地で生み出すことにあると考え、その思いで研究開発している。

地方で経済的に成立する液体合成燃料の製造システムとは。​​

里川氏画像3

里川氏:素をつくるための再エネは、出力変動リスクの対応は必要だが設備を持てば後は費用をかけずに発電することができる。重要な視点は規模を小さくすること。例えば、自治体が中心となって地域の企業を集め、石油会社の精製設備より2桁小さい液体合成燃料の製造システムをつくる。自ら太陽光発電装置や水素の水電解装置を持ち、あるいはバイオマス発電をして木材チップから濃縮CO2使う。太陽光の変動する電力でも十分に水素は製造できる。初期投資はかかるが運用コストは安い。なにより地域の雇用や経済を循環させる仕組みが生み出せる。すでに山梨県が進める水素プロジェクトは実証から実用段階にはいった。

太陽光発電で巨大な外国資本を呼び込んでも雇用は生まれない。これに対し地域の企業を集めて再エネ発電を行って水素をつくり、CO2を回収して液体合成燃料を製造、化成品もつくる。地域にエネルギーという価値が生まれ、人が集まり産業として持続的に発展する。災害時のレジリエンスも高まる。この液体合成燃料をつくる会社は、石油会社ではなく”小さな産油国”の意識を持つべきだ。再エネは​世界のどこでも自前のエネルギーが作れる。コンビナートのような都市集中から分散でき、輸入に頼らないエネルギー安全保障の面からも有効だ。

脱炭素に向けた取り組みに対し、どのような国の取り組みが必要か。​

里川氏画像4

里川氏:既存の化石燃料に脱炭素のための付加価値税を付け、その原資を新しいCN燃料に補填して燃料の価格差を少なくする仕組みなど、新燃料に誘導する政策をお願いしたい。また日本は世界第3位の地熱国であり、この資源を有効につかって再エネを増やすルール作りも必要ではないだろうか。

 

 

中小企業にも活躍の場はありますか。

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里川氏:液体合成燃料はまさにニュービジネス。電気や水素をつくる、運営する、設備や部品を製造・設置する、燃料を供給するなどの新しい産業が生まれる。バイオマスの木材チップなど、個人事業者ができることもある。そこに新しい農業が生まれるかも知れないし、いろんな産業の可能性が出てくる。CNとは見方を変えれば「エネルギーは買うモノではなく作るモノ」という意識変革でありゲームチェンジだ。固定概念にとらわれなければ、小回りの効く中小企業の参入余地はかなりある。また”おらが町”でつくったCN燃料で路線バスを動かしたり飛行機を飛ばすなど、エネルギーに新たな価値が生まれる可能性もある。


里川 重夫(さとかわ しげお)
1963年生まれ。1988年早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻修士課程修了、1999年早稲田大学大学院博士(工学)学位取得(課程外)。東ソー株式会社や東京ガス株式会社を経て、2007年から現職。

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