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基調講演 講師インタビュー(食品)

印刷用ページを表示する 更新日:2022年3月7日更新
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フードテックで拡がる新たな食の可能性に沸く食品業界。ハウス食品で顧問も務め、超現場主義で産業のリアルを追求する長内 氏に、「TIRIクロスミーティング2021」基調講演でご講演いただいた食品産業の技術や今後についてお伺いしました。


――食品産業における「技術」の位置づけは、自動車やデジタル機器などの他の産業と比較してどのような特徴があるのでしょうか?

長内氏:食品産業は、情緒的価値や意味的価値を作ることにアドバンテージがあります。自動車やデジタル産業はもともと技術的に優れており、技術がもたらす機能・性能によって価値を作りやすかったですが、ここ20年で頭打ちになっています。一方、食品産業では技術差による商品価値ではなく、総合的な体験でお客様が食を楽しむという価値を提供してきました。最近では、機能的価値を取り込んで、健康食品や機能性食品にシフトしています。

また、オープンイノベーションの議論が増えており、多様な産業同士が商品・技術開発をする機会が増え、食品産業は暗黙的価値*の取り扱いに長けていると感じています。例えば機能性食品の話でいえば、製薬メーカーは機能中心に考えて味や感覚を考えるノウハウがありませんが、食品メーカーは自分たちが伝えたいメッセージを味づくりに活かすことができます。

* 顧客が主観的に意味付け、使用状況に依存するため、暗黙的な特性を持つ価値

長内氏――食品における商品の価値には、時代ごとに大きな「流れ」があったように思います。今後(コロナ後)、どのような価値が重要になってくるとお考えでしょうか?

長内氏:結論からいえば、わからないという答えになります。

将来が過去の連続上にあれば予測できますが、不確実な世の中では将来が予測できません。そのため、予測するのではなく、予測しなくていい方法を考えることが重要です。

たとえば将来のシナリオを複数考えておく、それだけでも当たりはずれのリスクが下がります。コロナ禍では家庭での調理にスポットが当たっていますが、今後、その流れが持続するかもしれないですし、逆に外食に振れるかもしれません。

どれかひとつに絞るのではなく、複数の考えられるシナリオを用意して、何が来ても大丈夫なように待ち構えておくことが大切ではないでしょうか。

――近年の食品業界ではフードテックが注目を集め、SDGsも消費者意識に広まり始めています。このような動向について、先生はどのように見ておられますか?

長内氏:時代は繰り返すのかなという気がしています。戦後の食品産業は工業化することが近代的で先端的で安全なイメージでしたが、80年代くらいから手作りや自然食品が注目されてくると、工業化はネガティブな印象になりました。しかし、現在は、SDGsなどを踏まえて、地球環境に優しく安全で安心な食品を技術でどう生み出すか、もう一度食品の工業化の流れが来ているといえます。

フードロスや調理時に発生するCO2などの問題から、それらを解決できるなら少し高くても購入してもいいという人が増えたり、自宅で簡便に調理する技術においても、今までのように単に安くではなく、地球環境に優しい機能性を持った技術・食品が注目されたりしています。その一方で、食は本能的なものであり、人間が人間である以上それほどドラスティックに変わらないという気もしています。

――製品開発においては効率と効果の追求というテーマがありますが、中小企業がどのように「効果」をマネジメントしていくべきでしょうか?

長内氏:効果のマネジメントは中小企業には難しい課題です。不確実性とマネジメントのスタイル

効率性の重視はムダをなくして、できる限り少ない資本で仕事をする話ですが、効果の重視はある程度ムダを許容するという話なので大企業の方が有利になります。

多様性はある意味、計画されたムダであり、冗長性のあるムダを許容するためには、企業の体力が必要です。例えば、取り組むフードテック選びにおいて、中小企業が効果的に仕事をするためにも、がけっぷちに立たずに、失敗してもいいようなフェールセーフを考え、成功するために失敗を許容する姿勢やサポートが大事ではないでしょうか。

企業単体ではなく、業界団体や都産技研のような公的機関などのサポートを受けることも非常に重要です。中小企業がそうした弱い部分を補えれば、安心して取り組めるようになるはずです。

 


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