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都産技研の支援で高出力を実証、ノイズ干渉などの課題を克服して生まれた、5G/6G通信・ISAC研究向け「ミリ波開発キット」

公開日:2026年10月15日 最終更新日:2026年10月15日

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企業の課題


株式会社アイダックスは、5G・6Gのミリ波(28GHz帯)通信および通信・センシング(ISAC)実験用の「ミリ波開発キット」を新たに開発することを検討していましたが、その性能を評価するための高額な測定機器や試験設備を自社で導入・整備することは困難でした。

都産技研の支援


都産技研は公募型共同研究を通じて、既存の5G基地局エミュレーターを応用しながら、ビームフォーミングのアンテナパターンやEIRP(等価等方輻射電力)の測定を支援しました。また、放射イミュニティ試験を実施し、外来ノイズの影響を調査しました。

成果


都産技研の支援により、ミリ波開発キットの電波出力が目標を上回る約+50 dBm(CW)出力性能を有することを確認しました。また、ノイズ対策の発生の要因を特定し、外装の遮蔽対策によって改善につなげました。ミリ波開発キットは、2026年7月から販売を開始し、企業との取引や大学からの引き合いが生まれています。

無線通信装置を手がける株式会社アイダックスは、都産技研の公募型共同研究「クラウドと連携した5G・IoT・ロボット製品開発等支援事業」に応募し、採択されました。本研究では、5G・6Gのミリ波(通信に使う高い周波数の電波)およびISAC(通信とセンシングの統合技術)の実験用キット「ミリ波開発キット」(DSDK28G)の製品開発を行いました。今回は、アイダックス代表取締役の戸部 英彦氏と、都産技研 IoT通信技術グループ 松本 昇紘研究員にお話を伺いました。

数千万円の実験環境という「壁」を崩す、ミリ波開発キット

アイダックスは、通信キャリアなどの無線研究所に向けて、デジタル信号処理システムをはじめとした実験用装置を専門に開発する企業です。無線技術に詳しい技術者と、デジタル回路の設計に優れた技術者が、顧客の要望を的確にくみ取りながら開発を進めています。

株式会社アイダックス 代表取締役 戸部 英彦氏

「量産されている実験用装置は、あらかじめ定められた通信規格の仕様に沿って作られているため、研究者が自ら設定を変更することは容易ではありません。一方で、自社工場を持たない研究所では実験用装置を自作することもできません。そのため、研究所では、研究目的に合わせてプログラムや設定を自由に調整・カスタマイズできる実験用装置が必要とされています」(戸部氏)

ミリ波開発キット(DSDK28G)

同社が今回開発したのは、通信規格「5G」・次世代通信規格「6G」に向けたミリ波(28GHz帯、直進性が高く大容量の通信に向く一方、障害物に弱いとされる高い周波数の電波)の実験用キット「ミリ波開発キット」です。

例えば6G研究における主要テーマとして、通信と人やものの検知(センシング)を一つの電波でまかなう「ISAC」(アイザック、通信・センシング融合技術)があります。ミリ波開発キットは、こうした研究に取り組む大学や企業に向けて、数千万円規模になりうる実験用設備を、安価に提供できる製品です。

市販の基地局が通信規格に沿った決まった動作しかできないのに対し、電波の指向性(ビームフォーミング、電波を絞り込んで狙った方向へ飛ばす技術)を研究者が自由に制御できる点が特徴です。人の呼吸や心拍の動き、走行する車の速度などを電波で検知する研究にも応用できます。

公募型共同研究で実証した、目標を上回る出力性能

公募型共同研究において、都産技研はミリ波開発キットの開発支援を行いました。まず、電波暗箱(外部からの電波干渉を遮断した小型の試験設備)を用いて、ミリ波開発キットのアンテナが発するビームフォーミングのアンテナパターン(放射パターン)や、どれだけの電力で電波を出せるか(EIRP、等価等方輻射電力)を確認しました。こうした測定を実現した背景には、研究員の創意工夫がありました。

IoT通信技術グループ 研究員 松本 昇紘

「『5G基地局エミュレーター』という装置があります。本来、5G基地局による電波環境のシミュレーションをするための装置ですが、電波の強さを測るスペクトラムアナライザーとして、ビームフォーミングのアンテナパターンの測定や、EIRPの測定に用いました。既存設備を応用することで、必要な測定環境を構築しました」(松本)

また、ミリ波開発キットが高い電波出力性能が見込まれていたものの、実際の値は確認できていませんでした。そこで都産技研は、アッテネーター(電波を安全な強さまで弱める専用部材)をキットに装着したうえで測定したところ、目標を上回る約+50 dBm(CW)の出力があることを確認できました。

「予想よりも出力が高いことを確認でき、非常に嬉しかったです」(戸部氏)

また、外部の電波によるノイズ干渉を懸念し、都産技研において放射イミュニティ試験(外部からの電磁ノイズに対する耐性を調べる試験)を実施しました。装置の外側から、装置と同じ周波数の3.5 GHz帯の電波を当て、影響を調査しました。結果、誤作動を起こすほどの強さではなかったものの、SDR(ソフトウェア無線)の信号処理に使う特定の周波数(中間周波数)と外来電波の周波数が重なると、信号にわずかなノイズが生じることがわかりました。そこで、外装が空いていた部分を覆って周囲から遮断する対策を講じました。

「放射イミュニティ試験によってノイズの原因を特定したことは、今回の公募型共同研究ではとりわけ重要だったと思います」(松本)

このような試験装置は、高額であることが多く、導入へのハードルがあります。そこでアイダックスは公募型共同研究の活動に加え、「ローカル5G研究会」の会員制度も活用しました。会員は都産技研が所有するローカル5Gに関する測定機器を、トライアルで使用できます。加えて、利用時には専門的知識が求められる測定機器に対し、都産技研の研究員による操作のアドバイスを受けられたことも大きな利点だったと言います。

「測定に使う装置は、都産技研によって校正されており、その精度が保証されていると考えています。また、公設の試験研究機関である都産技研で測定することで、お客さまからもデータについて高い信頼を得ていると感じています」(戸部氏)

ミリ波の実用化とアプリケーション開発を推進する、ミリ波開発キットの展望

ミリ波開発キットは、2026年7月1日に先行販売を開始し、同月28日に正式発売しました。プレスリリースの配信に加えて、学会発表や展示会への出展を重ね、周知を進めた結果、企業とは数件の取引が決まり、複数の大学からも「利用したい」との声も届いています。

また、装置を貸し出す環境の整備も進んでいます。都産技研との公募型共同研究の実績が評価され、レンタルサービス事業者がアイダックスと提携し、ミリ波開発キットのレンタル提供に関する提携を結びました。時間単位でミリ波開発キットを利用できる仕組みが整えば、資金面に制約のある中小企業や研究者にも、ミリ波の実験環境を届けられると戸部氏は期待しています。

そして今後は、5Gにおけるミリ波帯「FR2」に加えて、新たな周波数帯「FR3」への対応も視野に入れています。国内の需要が本格的に立ち上がるまでは、海外の研究機関への展開も選択肢として考えています。

「ミリ波を利用する装置を開発するためのハードウェアは、公募型共同研究を経て完成しました。次はソフトウェアエンジニアの皆さんに、ヘルスケアや自動車、工場など、それぞれの用途に合ったアプリケーションを開発していただきたいです。これからも、ミリ波の需要が急激に伸びるような『キラーアプリ』を、さまざまな中小企業の皆さんと一緒に探していけたらと思います」(戸部氏)

松本研究員は5G・6Gの研究開発に携わる中小企業に向けて、次のように呼びかけます。

「5G・6Gに関する研究開発は、中小企業の皆さまにとって、資金や人材などの面で参入が難しいことがあります。しかし、そうした中小企業の皆さまに寄り添いながら、技術開発を後押ししていきたいと考えています。また、ローカル5Gをはじめとした5G・6G分野に関してご関心がある方は、ぜひローカル5G研究会への入会をご検討いただければと思います」(松本)
 



 

プロフィール写真

(左)株式会社アイダックス 代表取締役 戸部 英彦 氏
(右)IoT通信技術グループ 研究員 松本 昇紘
 

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