支援事例紹介 本部(DX推進センター)

対話する自律走行ロボットで接客満足度85 %―社会実装を支えた都産技研の安全性・対話AI評価

公開日:2026年10月15日 最終更新日:2026年10月15日

トップ画像
企業の課題


清掃・配膳といった単機能型のサービスロボットは普及していましたが、広告・接客・対話・移動を融合した複合型は多くありませんでした。NUWAロボティクスJAPAN株式会社は、プロトタイプは完成していたものの、メーカー視点だけでは店舗で安全かつ便利に使えるかを見極めにくく、事業化に踏み出せずにいました。

都産技研の支援


「クラウドと連携した5G・IoT・ロボット製品開発等支援事業」の公募型共同研究で伴走支援を行いました。ISO 13482を踏まえた安全性のリスクアセスメント、対話AIの応答速度と正答率の評価、事業化シナリオの策定という三つの領域で、第三者の専門的な視点から助言をしました。

成果


実店舗での実証実験で接客満足度85 %、ロボットによる推奨で、新規会員登録数は推奨しなかった日と比べて約16 %増加しました。対話AIの正答率は93.9 %まで高まりました。2026年4月に製品版の販売を開始し、小売以外の業種からも引き合いが広がっています。

NUWAロボティクスJAPAN株式会社は、生成AIと自律走行を組み合わせた、おもてなし接客ロボット「Collibot」(コリボ)を開発しました。単に情報を表示するだけでなく、自ら声をかけて客との自然な対話を生み出す新しい広告・接客メディアです。開発・事業化に向けて、東京都立産業技術研究センター(以下、都産技研)の公募型共同研究に応募し、採択されました。第三者視点による安全性の検証や対話AIの評価、現場実証を通じた改善に取り組み、その成果を反映した製品の販売を開始しました。

今回は、同社代表取締役社長・CEOの矢吹 雅彦氏と、都産技研側で主担当を務めたロボット技術グループ 武田 康司研究員、対話AIの支援を担当したIoT通信技術グループ 大原 虎太郎研究員に、開発の経緯と成果を聞きました。

単機能ロボットの先へ。「広告・接客・対話・移動」を1台に融合する

NUWAロボティクスJAPAN株式会社(以下「同社」)は、2016年設立の台湾のロボットメーカーNUWA Roboticsの日本法人として、2020年2月に設立されました。本社には鴻海(ホンハイ)精密工業グループの資本が加わり、部品調達から製造までの体制を活かして、開発から販売・サポートまでを一貫して手がけています。

同社はコミュニケーションロボット「Kebbi」(ケビー)の開発を行ってきました。Kebbiは想定していた質問と回答をあらかじめ用意するシナリオベースの会話に、生成AIとRAG(Retrieval-Augmented Generation、生成AIが外部のデータを検索して回答に反映する技術)を組み合わせることで、自然な会話を実現するロボットです。同社の強みは、ハードウェアの設計・製造にとどまらず、生成AIやRAGの組み込み、自律走行、運用ソフトウェアまでをセットで提供できる点にあります。

コミュニケーションロボット「Kebbi」(ケビー)

Kebbiを開発した後、同社はディスプレイをつけた複合型のサービスロボットを構想しました。それが「Collibot」です。市場には清掃型や配膳型など機能を絞ったロボットはありましたが、広告・接客・対話・移動を1台に融合したものはほとんどありませんでした。

32インチの両面ディスプレイの上にKebbiを載せた「Collibot」は、一方的に映すのではなく対話でやり取りする新しい広告メディアとして構想されました。

「動き回って表示するだけでは、人の注目を集められません。弊社のロボットは、上部のKebbiが人を見かけたら声をかけます。『こんな商品が出ました』と一言添えることで注目され、そこから対話につなげられます」(矢吹氏)

ただ、プロトタイプは問題なく動作するものの、店舗で安全かつ便利に使えるかは、同社だけでは見極めきれずにいました。
 

NUWAロボティクスJAPAN株式会社 代表取締役社長・CEO 矢吹 雅彦氏(左)、 CS/技術サポート部 主任 張 耕華氏(中央)、 
CS/技術サポート部 塗 翔升氏(右)

公募型共同研究で「動く」を「使える製品」に。4者体制で安全性と対話精度を磨く

同社と都産技研との接点は、3年前から参加していた「サービスロボット事業化交流会」でした。Collibotのプロトタイプの構想を進めていた時期に、「クラウドと連携した5G・IoT・ロボット製品開発等支援事業」公募型共同研究の案内を受けます。公募型共同研究の時期が、Collibotの開発・参入のタイミングと合致していたため、同社は応募し、採択されました。

「メーカーは『こう作れば動く』という技術視点だけで考えがちです。市場で安全に、便利に使えるために、技術とユーザーの両面から別の角度で助言をいただけることに価値があると感じました」(矢吹氏)

この共同研究では、同社はCollibotの開発・事業化を担当しました。都産技研は、製品の仕様や設計の安全性を専門的に確認し、実証実験や事業化に向けた支援をしました。共同研究パートナーのウォータースタンド株式会社は、販売面の助言に加え、実証実験の実現に尽力しました。共同研究パートナーの株式会社赤ちゃん本舗は、実ユーザーとなる想定で店舗を実証実験の場として提供しました。

都産技研は大きく三つの領域で支援を行いました。

一つ目は、安全性のリスクアセスメント(危険要因の洗い出しと評価)です。都産技研は、以前、サービスロボットの安全規格であるISO 13482を満たして開発したロボット「Libra」(リブラ)の知見を活用して、リスク評価を支援しました。

「隙間に子どもが指を入れてケガをしないか、よじ登られたら危険ではないか、といったリスク項目を洗い出し、緊急停止ボタンの設置場所の高さについて助言を行いました。また、店舗の環境音とロボットの発話音量については実測を行い、より実環境を想定して調整をしました。さらに、会話をしていないときでもロボットの存在をアピールした方がよいと提案しました。買い物客がロボットの存在に気づかず、至近距離で突然認識し、驚く可能性があるためです」(武田)

ロボット技術グループ 研究員 武田 康司(左)、 IoT通信技術グループ 研究員 大原 虎太郎(右)

 都産技研からの助言を受け、同社は製品版Collibotの外装の隙間を極力減らす設計に改善しました。緊急停止ボタンの数や設置場所も変更し、発話音量は現場の環境音に埋もれず、うるさすぎない、最適な音量を現場で計測しながら調整しました。また、BGMを流しながら移動させることで存在をアピールすることにしました。

右側面に設置された緊急停止ボタン

二つ目は、対話AIに関する支援です。生成AIによる会話は複数の処理工程が必要なため、当初は発話から回答まで最長で12秒ほどかかっていました。目標は3秒以内でしたが、技術的な短縮だけでは限界がありました。そこで採り入れたのが「つなぎ言葉」です。質問を受けると「承知しました、すぐ調べます」と発話し、その間に回答を用意することで、体感的な待ち時間を縮めました。

Collibotと対話する様子

対話AIの正答率向上にも取り組みました。2か月半をかけて実証実験を行い、実際の対話ログを取ってPDCAを回したことで、最終的には正答率が93.9 %まで達しました。
生成AIの安全性・倫理面も検討課題になりました。都産技研は、デモや実証でハルシネーション(誤った情報の生成)やプロンプトインジェクション(不正な指示による攻撃)への対策を助言しました。これを受けて同社は、商品や店舗の情報はRAGから回答することにし、一般会話への対応は生成AIを用いるように切り分けました。

「生成AIを使う上での安全性や倫理性の線引き、ハルシネーションやプロンプトインジェクション対策などをどの程度求めるべきか手探りの状態で考えるのが難しかったです。当時は制度化の議論が進んでいる途中で、どこまで厳格に対策すべきか、明確な基準が定まっていない部分もありました。便利さとリスクのバランスを現場と照らし合わせて考えられたのは、実証型の共同研究ならではの経験でした」(大原)

三つ目は、事業化支援です。事業化シナリオの策定やプロモーション、展示会での訴求方法について、同社に助言しました。2025年12月の「2025国際ロボット展」への出展も支援しました。

こうした実証実験や事業化を進めるうえで、同社はCollibotの運用システムの使いやすさに注力しました。


「プログラムを組む専門知識がない店舗スタッフや運営担当者でも使えるツールにすることを意識しました。NUWA Roboticsのロボット開発ツール『RoFlow』を用いて、サービスフローをノーコードで設定できるようにしています。さらに『サービス設計シート』や絵コンテ付きテンプレートを用意し、やりたいことを日本語でまとめてからサービスフローに落とし込める仕組みも作りました」(矢吹氏)

RoFlowのサービスフロー設定画面

実店舗で示した手応えと、業種を越える広がり。Collibotのこれから

Collibotの実証実験は、2025年8月から10月にかけて、「アカチャンホンポ アリオ北砂店」で2か月半にわたり実施しました。RAGに約3,000点の商品と棚位置の情報を登録し、売り場案内をできるようにしました。

期間中の来店者は約25,000人、Collibotのサービス利用は1,064回にのぼりました。利用後の5段階評価のアンケート調査による接客満足度は85%、顧客満足度は平均4.24点(5点満点)でした。

実証実験では、Collibotが会員登録勧める効果の検証も行いました。ロボットが登録を勧めた日と勧めなかった日の新規獲得数を比べ、勧めた日の方が約16%多い結果となりました。予想以上に子どもからの人気が高く、店舗や動物にまつわるクイズの完了率(クイズ開始者のうち最後まで回答した割合)は99.3%に達しました。

その後、Collibotの実証実験はイオンモール札幌平岡店などでも行われました。

実証実験の様子(イオンモール札幌平岡店にて撮影)

2025年12月の「2025国際ロボット展」では都産技研ブースの一角にCollibotを出展しました。当初、小売・サービス業の企業からの反応を想定していましたが、それ以外にも、工場見学の案内やオフィス受付、交通インフラなど、想定外の業種からも関心が寄せられました。

Collibotの製品版は2026年4月に販売を開始しました。現在は株式会社ノジマのショールーム「MIRAI ROBO SQUARE」での案内に活用されています。そのほか、ホテル、商業施設、空港での実証実験なども進んでいます。同社は今後、来店客と対話して商品を提案する「売り子ロボット」の構想も進め、レンタルと販売の両方で幅広い業種への普及を目指します。

「自社では気づかなかった点を都産技研から数多く助言いただき、商品に反映させることができました。都産技研と一緒に開発したという実績は、お客さまに安心感を持っていただくうえでも大きかったです」(矢吹氏)。

大原研究員は「分野の異なる研究員と経験豊富な技術員が、それぞれの専門性を活かして多角的に支援できたと思います。人手不足という社会課題解決にも貢献できる製品なので、広く社会に広まってほしい」と語りました。

製品版Collibot(株式会社ノジマのショールーム「MIRAI ROBO SQUARE」にて撮影)

 


 

プロフィール写真

NUWAロボティクスJAPAN株式会社
代表取締役社長・CEO 矢吹 雅彦 氏(中央右)
CS/技術サポート部 主任 張 耕華 氏(右から2人目)
CS/技術サポート部 塗 翔升 氏(右端)

IoT通信技術グループ
研究員 大原 虎太郎(左端)
ロボット技術グループ
研究員 武田 康司(中央左)

同じカテゴリの記事