支援事例紹介 多摩テクノプラザ, 機能性繊維技術グループ

気化熱で身体を健康的に冷やす「サイフォンクールベスト」

公開日:2026年10月15日 最終更新日:2026年10月15日

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企業の課題

株式会社三機コンシス、hap株式会社、株式会社空調服の3社は、ポンプやバッテリーを使わずに水の気化熱で体を冷やす「サイフォンクールベスト」を共同開発していました。ボトルの水をベスト内に流しこむ給水口を量産するための金型を製作する際に、給水口の形状や使い勝手、適した材料を確認する手段がなく、金型を作り直す手戻りのリスクを抱えていました。

都産技研の支援


都産技研は、3Dプリンタを用いた複数材料の給水口試作、中空(ちゅうくう)糸(し)膜(まく)(管状で中に水を通し、全体が網目状になっていて水が少しずつ染み出す素材)を固定する方法の見直し、着用不快感の軽減を目的とした生地の設計など、横断的に支援を行いました。

成果

 

量産前に実物に近い試作品で形状と使い勝手を確認しながら、製品化が進められました。「サイフォンクールベスト」は2025年2月の展示会で初披露され、本格的な販売を開始しています。

株式会社三機コンシス(以下、三機コンシス)、hap株式会社(以下、hap)、株式会社空調服(以下、空調服)の3社は、バッテリーやポンプを使わずに水の気化熱で体を冷やす冷却ベスト「サイフォンクールベスト」を共同開発しました。中空糸膜に水を含ませて気化させる冷却機能繊維「COOLPIA(クールピア)」を核に、3社それぞれの技術を持ち寄った製品です。

ボトルの水をベスト内のCOOLPIAに送るための給水口の量産に向けて、金型を製作する前段階では、都産技研の「オーダーメード型技術支援」を活用し、給水口部分を3Dプリンタで試作しながら形状と材料を確認しました。

開発に携わった三機コンシス 代表取締役の松本 正秀氏、hap 代表取締役の鈴木 素氏、空調服 開発推進室部長の佐藤 知弘氏と、都産技研 機能性繊維技術グループの唐木 由佑主任研究員、窪寺 健吾主任研究員、村上 祐一副主任研究員に話を聞きました。

水と繊維の技術を持ち寄った3社

三機コンシスは、特殊な導電性繊維をニット生地に編み込んで機能を持たせた「スマートテキスタイル」を手がける企業です。以前より冷却機能繊維「COOLPIA」を開発しており、これを用いた熱中症対策ウェア(ポロシャツ)などを販売していました。「サイフォンクールベスト」では、「COOLPIA」に水を適度なペースで供給することで、水の気化熱により冷却効果を実現する「COOLPIAユニット」の開発を担当しました。

株式会社三機コンシス 代表取締役 松本 正秀氏

「ボトルからベスト内部に入った水が気化するのが特徴です。他の水を使う製品はポンプで水を移動させるためバッテリーが必要となります。『サイフォンクールベスト』では、高低差を利用して自然に水を移動させるサイフォンの原理を使い、最初にボトルに水を入れれば、あとは自然に吸い上げられて流れるような仕組みです」(松本氏)

メッシュ生地の下層に白い気化熱冷却機能繊維「COOLPIA」が組み込まれている
COOLPIAに水を供給するボトルとチューブ

hapは、第11回技術経営・イノベーション大賞において最高位の内閣総理大臣賞を受賞した機能性繊維技術「COVEROSS®(カバロス)」を手がける企業です。独自の後加工技術を核に、暑熱・寒冷対策やウェルビーイングの向上を目指し、機能性素材の研究開発から製品化・量産、科学的評価まで一貫して取り組んでいます。「サイフォンクールベスト」の開発においては、ベタつきや濡れ感を抑えるメッシュ状の生地や二重構造の設計・試作を担当しました。また、汗じみや着用時の不快感、洗濯耐久性などの課題に加え、身体への負担や生理的な快適性にも着目し、アパレル製品としての実用性と冷却効果の科学的評価・検証を進めました。

hap株式会社 代表取締役 鈴木 素氏

「一般的なJIS規格において人が感じる『冷たい』という基準は、温暖化が進んだ現在ではもう過去の基準と考えています。この5年で、ファン付きウェアも一般的な衣服も進化させていく必要がありました」(鈴木氏)

空調服は、ファンで衣服内に外気を取り込み、汗の気化熱で体を冷やす「空調服®」を20年以上手がけてきた企業です。「サイフォンクールベスト」の開発においては、服の中で効果的に気化熱を発生させる着用構造や風の流れを考慮した製品化を進めました。また、2025年2月に開催した自社のユニフォーム展示会において、「サイフォンクールベスト」を初めて世の中に紹介しました。自社の販売網を活かした普及・販売活動および啓発活動を担当しています。

株式会社空調服 開発推進室部長 佐藤 知弘氏

「汗をかく前の段階や、汗をかきにくい人の場合、水分がない状態でファンによる送風だけを行っても、服の中の温度は外気温に近づいてしまい、十分な冷却効果が得られません。しかし、保冷剤や電気的な冷却方式を用いることは、当社の『生理クーラーⓇ理論』(汗の蒸発熱で体温を調整する仕組み)の考え方とは相反するため、採用できませんでした。何かプラスできるものがないかと探していたところ、hap様のご紹介で三機コンシス様と出会え、製品化につながりました」(佐藤氏)

空調服が提唱する「生理クーラーⓇ理論」と、三機コンシスの「COOLPIA」は親和性が高く、両社は5年前から基礎研究を重ねてきました。環境変化に伴う猛暑に対抗するため、製品化への道が拓かれました。

3社の連携を後押ししたのが、2022年に都産技研・国立研究開発法人産業技術総合研究所・企業が中心となり発足した「t-テキスタイル製品化研究会」です。この研究会は、スマートテキスタイルを中心とした繊維製品の開発を行う企業間の交流と活性化を目的としています。現在は三機コンシスの松本氏が会長を務めています。各社の技術や課題を共有し、率直な意見交換をする中から、自然な形で今回の連携が生まれたといいます。

きめ細やかな支援が支えた、給水口の試作と材料選定

「サイフォンクールベスト」の製品化において課題となったのが、胸元のボトルから水を導く給水口(コネクター)部分でした。量産用の金型を製作する前に、都産技研へ相談し、「オーダーメード型技術支援」を活用して、都産技研の3Dプリンタで給水口を試作することになりました。

機能性繊維技術グループ 主任研究員 唐木 由佑(左)
副主任研究員 村上 祐一(中央)
主任研究員 窪寺 健吾(右)

給水口は肌に触れたり衣服の一部になったりする部品のため、硬すぎても違和感があり、軟らかすぎても機能を果たせません。肌触りと機能性を両立させるため、都産技研の村上副主任研究員は、3Dプリンタを活用した給水口(コネクター)の試作と材料提案を担当しました。

「提供いただいた3D-CADデータを改良し、試作を行いました。硬さの異なる十数種類の材料の中から、最終的な試作には『PPライク樹脂』(ポリプロピレンに似た性質を持つ樹脂)を提案しました」(村上)

給水口(コネクター)の設計データの図。左:編集前のモデル、右:編集後のモデル。
設計データ

都産技研の唐木主任研究員は、「サイフォンクールベスト」のテキスタイル設計を行いました。

「COOLPIAの内部構造である『中空糸膜』の固定方法について見直しを行い、組み立てやすさと接着の確実性を両立しました。また、都産技研の各分野の技術を活用できるよう部署間の橋渡しも行いました。例えば、着心地や濡れ感の不快度評価については『生活工学センター』、給水ボトルやチューブの耐久性・強度試験については『城東支所』といったように、組織横断的に支援を行いました」(唐木)

一方、「サイフォンクールベスト」の開発において3社が最も苦労したのは、水を全体に行き渡らせながら、肌に直接濡れた感触を与えない生地の開発でした。

都産技研の窪寺主任研究員は、気化熱が最適に発揮される空間の確保や、量産時に洗濯による破損を防ぐといった課題を克服するため、「サイフォンクールベスト」に使用する生地の選択、試作、評価を支援しました。

「開発当初から、冷やすだけではなく、着用時の快適性を損なわないことを目標に掲げられていました。『サイフォンクールベスト』では、独自のメッシュの網目を作り、二重構造にすることで、肌への張り付きを抑え、濡れ感による不快感を軽減するよう設計しました」(窪寺)

「気化熱冷却」を正しく伝える啓発活動と、海外展開への期待

「サイフォンクールベスト」は2025年2月、空調服が主催する展示会で初めて披露しました。展示ブースでは、気化熱による冷却の仕組みを可視化するため、模型を使って風を通す前後の温度差を来場者に体感してもらう工夫を行いました。

「気化熱による冷却は涼しそうだというイメージはあっても、服の中の様子は目に見えません。そのため、温度差を数値やビジュアルで示したところ、大きな反響をいただきました」(佐藤氏)

販売はすでに開始されています。鈴木氏は、「気化熱冷却」という仕組みへの理解を広める啓発活動が課題になると話します。

「冷たければよいという単純な話ではありません。冷たすぎる場合、例えば発汗作用が鈍り、体に対するダメージの発生が考えられます。心地よさや疲労の軽減も含めて、体にとって本当によいものかを科学的に評価し、伝えていく必要があると考えています」(鈴木氏)

今後は、海外展開も視野に入れています。

「乾燥した欧米の環境では、『サイフォンクールベスト』の仕組みはさらに効果を発揮するはずです。将来的には、海外市場への展開も進めていきたいと考えています」(三機コンシス 松本氏)

「サイフォンクールベスト」は、東京都環境局が主催する「東京都暑さ対策グッズコンテスト」において、2026年5月1日から5月10日に行われた都民投票の結果、「体温冷却・調節部門」でグランプリを受賞しました。

 

左から株式会社空調服佐藤氏、株式会社三機コンシス 松本氏、hap株式会社鈴木氏の写真
「東京都暑さ対策グッズコンテスト」体温冷却・調節部門でグランプリを受賞

窪寺副主任研究員は、次のように期待を寄せます。

「t-テキスタイル製品化研究会は、企業同士のコラボレーションによる製品化を目的として活動しており、研究会をきっかけとして実際に製品が誕生したことは大変喜ばしく感じています。本製品の開発を通じて得られた知見を活かし、今後もさらに発展した製品や新たな取り組みにつなげていただけることを期待しています。t-テキスタイル製品化研究会にご興味のある方は、ウェブサイトをご覧ください」(窪寺)

用語説明 

オーダーメード型技術支援

お客さまの開発段階(企画から販売促進まで)に応じて、技術的課題の解決をきめ細かく柔軟にサポートします。標準が存在しない品質評価など、定型の依頼試験では対応できない課題については、都産技研からお客さまへ支援内容を提案し、承諾を得た上で実施します。
オーダーメード型技術支援は2026年3月31日をもって終了しました。2026年度は、受託技術支援や課題解決型研修などの事業で同様の支援を行っています。

 


 

プロフィール写真

(左から)
株式会社空調服 開発推進室部長 佐藤 知弘 氏
株式会社三機コンシス 代表取締役 松本 正秀 氏
hap株式会社 代表取締役 鈴木 素 氏

機能性繊維技術グループ 
副主任研究員 村上 祐一
主任研究員 唐木 由佑
主任研究員 窪寺 健吾


掲載商品は、㈱三機コンシス・hap㈱・㈱空調服の技術を使用しています。
「空調服」は、㈱空調服のファン付きウェア、その附属品、およびこれらを示すブランドです。
「空調服」「サイフォンクールベスト」「生理クーラー」は、㈱空調服の登録商標です。

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