建設現場の通信課題に応える「ハイブリッド型メッシュWi-Fiシステム」の開発
公開日:2026年8月3日 最終更新日:2026年8月3日


ソナス株式会社は、自社独自の、広範囲なエリアをカバー可能な無線通信技術「UNISONet(ユニゾネット)」を活用し、建設現場における使用を想定して、UNISONetとWi-Fiのハイブリッドアクセスポイントの製品化を進めました。しかし、製品化にあたって必要となる品質評価に関する知見が不足していました。そのため、建設現場のDXを推進する株式会社ネクストフィールドと共同で、「クラウドと連携した5G・IoT・ロボット製品開発等支援事業」の公募型共同研究に応募しました。

都産技研は、EMC(Electro-Magnetic Compatibility: 電磁両立性)試験を含む無線通信に関する技術支援を行いました。また、事業化に向けた技術面の課題整理も行いました。

都産技研の支援により、製品化に向けた品質評価が行われました。実証実験を経て、2026年6月からの本格的な販売開始時点では、アクセスポイントを中継した18ホップ(データが送信元から目的地に到達するまでに中継機器を通過する回数)先で30 Mbps以上の通信速度を達成しました。現在は建築現場での本格導入に向け、販売体制の整備が進められています。
建設現場では、人手不足が課題となっています。その解決策として業務の効率化を行うために、IoT機器やロボット、クラウドサービスなどを活用した建設DXが進んでおり、これらを安定して運用するためのネットワーク環境の構築が必要です。こうした状況に対応するため、ソナス株式会社(以下ソナス)は株式会社ネクストフィールド(以下ネクストフィールド)と共同で、「クラウドと連携した5G・IoT・ロボット製品開発等支援事業」の公募型共同研究に応募し、採択されました。本研究では、ハイブリッド型メッシュWi-Fiシステムの製品開発を行いました。
今回は、ソナス株式会社 代表取締役CEOの大原 壮太郎氏、開発本部 本部長の赤岩 航氏、事業本部 シニアビジネスマネージャーの小宮山 徹氏、 株式会社ネクストフィールド サービス企画・開発部 マネージャーの竹内 俊之氏、サービス企画・開発部の中川 魁人氏と、都産技研 IoT通信技術グループ 東内 章技術員、中川 詩音研究員にお話を伺いました。
UNISONetとWi-Fiのハイブリッドで建設現場の通信を変える
ソナスは、独自の無線通信技術「UNISONet」を核として、センシングに関するハードウェア、ソフトウェア、サービスの企画・設計・製造・販売を手掛ける東京大学発のベンチャー企業です。UNISONetは、IoT機器をはじめとしたデータの通信を目的とした技術であり、高い通信安定性と広域通信性能を備えています。同社は、今までに建設現場向けの振動検知などのセンサーネットワーク製品を開発してきました。
ネクストフィールドは、飛島建設の建設現場ノウハウとNTTグループのICTを組み合わせて設立されたベンチャー企業です。同社は、建設現場のWebカメラや気象情報などを一元化して表示できる施工管理サービスをはじめとした事業を提供し、建設現場のDX推進を目指しています。
建設現場で用いられるデジタルツールには、例えば監視カメラやタブレットなどが挙げられます。それらは映像や3D図面の画像など通信量が多いデータを扱うため、Wi-Fi通信環境の構築が必要です。Wi-Fi通信環境では、通常はアクセスポイントを設置します。しかし建設現場では、建物の構造が工事の進捗状況により変化するため、アクセスポイントの電波の届く範囲が工事進捗に応じて変わります。そのため、アクセスポイントを適宜移設しなければ、接続が途切れてしまいます。移設には通信環境構築を専門としている技術者が対応しなければなりません。
こうした課題を解決するために、両社はWi-Fi通信環境並みのデータ通信量を確保しながら、UNISONetの高い通信安定性と広域通信性能を兼ね備えたハイブリッド型メッシュWi-Fiシステムの製品化を検討していました。さらに、専門知識を持たない現場担当者でも、容易に設置・運用できることを目指しました。
製品を建設現場に導入するには、通信性能だけでなく、建設現場で求められる品質や安全性などを確認する必要があります。特に、無線機器として製品化するためには、電波干渉やノイズの影響に関する品質評価が欠かせません。こうした評価や製品化に向けた課題を整理しながら開発を進めるため、都産技研の公募型共同研究に応募しました。
実際の開発では、製品化に向けて一つひとつ確認しながら進める必要がありました。

開発本部 本部長 赤岩 航 氏(右)
「Wi-Fiアクセスポイントを開発するのは初めてであり、どの項目をどういう手順で試験すればいいか、知見がまったくありませんでした。製品化に向けて、通信性能をどのように確認していくかが課題でした」(赤岩氏)
また、公募型共同研究の仕組みそのものは、応募を後押しする要素となりました。

サービス企画・開発部 中川 魁人 氏(左)
「今回の公募型共同研究で掲げられていた通信機器・IoT製品などに関する研究要件は、我々が進めていた製品開発との親和性が高いと感じていました。また、共同研究に係る費用を委託費として支出いただける点も非常に魅力的であり、まさに『渡りに船』でした」(竹内氏)
都産技研によるEMC試験と進捗管理
都産技研は、試作機に対して無線通信に関する品質評価試験を実施しました。その中でもEMC試験では、建設現場で想定される多様な機器や電源設備の環境下を想定した上で評価を行い、本システムが周辺機器に悪影響を与える電磁ノイズを発生しないこと、さらに外部ノイズの影響を受けても安定して動作することを確認しました。

EMC試験は都産技研の電波暗室で行われました。試験で改善が必要な項目が見つかった際も、都産技研はどのような対策をすれば良いか、また対策後にどの項目を再試験すべきかを具体的に提示しました。
「都産技研での試験から帰るたびに技術者たちはうれしそうでした。課題が出ても、『こういう特性があるのか』『次はこうすればよいのか』と新しいことが分かりますし、都産技研から対策も示していただけたからです」(赤岩氏)
また、都産技研は技術支援にとどまらず、月1回程度の対面ミーティングを重ねながら、開発状況や課題を関係者間で共有し、共同研究の推進を支援しました。技術的に困難な局面に際しても、関係者とともに解決策を探りながら伴走しました。実際に、公募型共同研究期間の終了間際には、複数のアクセスポイントを中継した際に、スループット(実際に通信できるデータ量)に関する重大な問題が発生しました。

研究員 中川 詩音(左)
「解決の目処が立たない状態が続いた時、公募型共同研究の期間を延長する選択肢も提示しながらも、『決意するなら期限どおりに進めましょう』と背中を押し続けました。何が原因で、どの用途なら十分な性能が出るのかを整理しました」(東内)
そこで関係者は、単純な最大通信速度だけでなく、建設現場で実際に想定される用途に必要な通信性能を整理しました。その結果、監視カメラ映像やBIM/CIMデータ(3D図面の画像など)の閲覧など、実運用を想定した条件では必要な性能が得られることを確認しました。
その時の心境を、大原氏は次のように語ります。
「公募型共同研究の期限を延ばしていたら、製品の完成がズルズルと先送りになっていたかもしれません。限られた期間の中で、何を確認し、どこまで仕上げるのかを一緒に考えていただけたことで、やり切ることができました」(大原氏)
今回開発したハイブリッド型メッシュWi-Fiシステムは、大きなデータはWi-Fi通信で送ります。一方で、アクセスポイント同士がつながっている状況や、どの通信ルートが安定しているかといった制御情報は、高い通信安定性と広域通信性能を備えているUNISONetで扱います。これにより、データを送る通信と、ネットワーク全体を管理、制御する通信を分けることができます。
また、共同研究中に行った実証実験では、アクセスポイントを中継した18ホップ先でも20 Mbps以上の通信速度の維持を実現しました。これは高解像度の監視カメラ映像をリアルタイムで転送できる水準です。加えて、中継途中にある1台のアクセスポイントが故障した場合でも、自動的に別の経路へ切り替えて通信を継続できることも確認されました。なお、公募型共同研究が終了したのちも、ソナスは実証実験を行い、本格販売時までには、さらに30Mbps以上の通信速度の維持を達成しました。
地方・中小の建設現場にも導入しやすい通信インフラへ
ハイブリッド型メッシュWi-Fiシステムは、2026年6月から本格販売を開始し、導入拡大に向けた体制づくりも進めています。

「当初用意した100台の在庫が早期に引き合いを受けるなど、市場からも高い関心が寄せられています。導入いただいているお客さまからは『フロアをまたぐのに無線でつながる点が既存製品との大きな違いだ』『電源を挿すだけで簡単に使用できる』という反応が届いています」(小宮山氏)

「ネットワーク全体の状況がわかるように、ユーザインターフェイスを考慮したダッシュボードを作成しました。導入いただいているお客さまからは、『稼働状況などは一目でわかり、専門家でなくても理解できるのは使いやすい』とのコメントをいただいています」(竹内氏)
今後は、ハイブリッド型メッシュWi-Fiシステムに対して、振動センサーや熱中症対策サービスとの統合も視野に入れています。 普及すれば、安全管理や作業員の体調把握もカバーできるインフラとしての役割を担うことができます。
「一番困っているのは地方の中小の建設現場です。地方は労働人口の不足を補うDXが急務であるにもかかわらず、リソースが足りていないのが現状なのです。そこで当社としては、地方の現場でも導入しやすい価格で提供できるように、今後も部品や製造工程のコストダウンの工夫を続けていきます。加えて、中小企業のエンジニアやスタートアップには、ぜひ都産技研のことを知っていただきたいです」(大原氏)
そして、現場課題の解決を目指す企業との取り組みは、都産技研にとっても貴重な経験となりました。
「今回の公募型共同研究により、建設現場における安全性向上と生産性向上の両立に資する有効な知見を得ることができました。都産技研としても、公募型共同研究を通じて東京都の中小企業による先進的な技術開発やDXの取組を支援し、製品化や事業化に貢献していきたいと考えています。本成果がさらなる検証と改良を重ねられ、建設業界全体の課題解決につながることを期待しています」(中川)

ソナス株式会社
代表取締役CEO 大原 壮太郎 氏(中央右)
開発本部 本部長 赤岩 航 氏(中央)
事業本部 シニアビジネスマネージャー 小宮山 徹 氏(中央左)
株式会社ネクストフィールド
サービス企画・開発部 マネージャー 竹内 俊之 氏(右から2人目)
サービス企画・開発部 中川 魁人 氏(右端)
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