障害者や高齢者の飲用を補助する「ストロー補助具」の製品化に向けた共同研究
公開日:2024年10月1日 最終更新日:2024年10月11日
都産技研と有限会社五味彫刻工業所は、障害者や高齢者向けのストロー補助具について、製品化に向けた共同研究を行いました。製品化における課題やその解決、今後の展望などについて、五味彫刻工業所代表取締役の五味 正彦 氏、技術マネージャー本多 次男 氏、そして都産技研城東支所でプロダクトデザインの支援を担当する酒井 日出子主任研究員に話を聞きました。
介助・介護の現場から求められた「ストロー補助具」
都産技研では、2022年にストロー補助具の開発を行いました。ハンディキャップを持つ子どもを対象にした補助具で、紙コップや市販のカップに持ち手を付けられる「カップホルダー」、カップの中でストローが回ることを防ぐ「ストローサポート」、ストローが喉を傷つけることを防ぐ「ストップストロー」の3種類の試作品を製作。完成したストロー補助具は、「福祉機器コンテンスト2022」機器開発部門で優秀賞を受賞しました。
「展示会でストロー補助具を紹介したところ、介助・介護に関わる方々から『製品化してほしい』という声を多くいただきました。しかし、3種類すべての製品化を申し出てくれる企業がなかなか見つからない状況でした」(酒井)
そんな中、展示会での会話をきっかけに紹介されたのが、プラスチック金型製作や射出成形に強みを持つ五味彫刻工業所でした。詳細を知るために都産技研を訪れた五味氏は、試作品の形状を見て「これは難しいかもしれない」と思ったといいます。
「ストローサポートやストップストローは問題ないのですが、カップホルダーは中央のホルダーから両足が伸びた複雑な形状で、このままでは金型製造も射出成形も難しいと感じました。酒井さんからは『一体型ではなく、折りたたみ式か組み立て式にしたい』という要望を聞きまして、それならと引き受けることにしました。」(五味氏)
こうして、2023年1月から共同研究が始まりました。これまで、五味彫刻工業所では障害者や高齢者向けの用具を扱ったことはありませんでしたが、五味氏は以前より関心があったといいます。
「私の母親も介護が必要な状態ですし、この年齢になりますと介助や介護は身近な問題です。ケアをする方にも、される方にも、より良いものを作れたらという思いがありました」(五味氏)
製品化に向けて安全性・汎用性・生産性を追求
共同研究は、都産技研が3Dプリンタでサンプルを作り、それを五味彫刻工業所がモノづくりの観点からブラッシュアップする形で進められました。金型設計を担当する本多氏は、かつて玩具や学習教材の付録の設計に携わっていたと話します。
「共同研究では生産性だけでなく、安全性も考慮しました。同じプラスチックでも、破損した際に鋭利な角が出るものと出にくい素材があります。怪我を防ぐためにも、破損しにくい素材を選ぶことが大前提です。また、洗うものなので、食洗機で使用できるかなども考慮に加えました」(本多氏)
「ストップストロー」は、もともと2つのパーツに分かれていましたが、小さなパーツの誤飲を防ぐため一体型にしました。さらに、ストローを挿入しやすく、かつ保持できるようにするために、スリットの大きさと素材の硬軟を組み合わせ、約30通りのパターンから最適なものを検討しました。
「ストローサポート」の試作品は、カップの種類によっては取付が不安定になり、ストローと反対側の端が浮いてしまう場合がありました。これを解決すべく、さまざまな素材や大きさのカップを集め、都産技研では形状の設計と3Dプリンタによる検証を繰り返しました。
「同じ量が入るカップであっても、カップの口径や高さ、側面の勾配はメーカーによって違いますし、素材によって縁の厚みや形状も異なります。プラスチック製だけでも20種類以上のカップを集めて検証を繰り返し、一般的なカップに安定して取り付けられる形状にすることができました」(酒井)
最も形状が複雑だった「カップホルダー」は組み立て式にし、形状を大きく変更しました。大小2つのリングと持ち手で構成したことにより、コンパクトに収納できるほか、ホルダーを上下にひっくり返すことで、5オンスから20オンスのコップまで対応できるようになりました。
「当初は足を折りたたむ案もあったのですが、部品数や製造工程が増えてコスト増になるうえ、単純に足を折りたたんでもそれほどコンパクトにまとまらなかったんです。組み立て式に決めてからも、子どもが振り回してもジョイント部分が抜けないようになど、構造についてやりとりを繰り返しました」(本多氏)
「テーブルに置いたまま飲みやすいように、カップを斜めに傾けた状態で保持したかったので、全体のバランスも難しかったですね。数え切れないほどサンプルを作りました。五味彫刻工業所さまからは、想定される強度や、成形時の制約などについてもアドバイスをいただきました」(酒井)
2024年度内にすべてのストロー補助具を製品化へ
共同研究は2023年10月に終了し、製品化に向けた基本的な形状が完成しました。五味彫刻工業所は、金型設計からプラスチック射出まで一貫して対応できることもあり、さらに量産に向けた金型の設計や調整を行ってきました。
完成したストロー補助具は2024年4月に開催された「キッズフェスタ2024」で展示・販売されました。2日間で1300人以上がストロー補助具のブースに立ち寄り、実際に多くの来場者が購入されたといいます。
「展示会の2日目から販売を開始したんですが、『1日目に来たけど売っていなかったので2日目も来た』という方もいらっしゃって、驚きました。そこまで求められている製品なんだと強く感じましたし、実際に使っていただいて、少しでもお役に立てば嬉しいですね」(五味氏)
「試作品を作るまでにも苦労がありましたが、製品化にはまた別の苦労があるのだと実感しました。心強い方々に恵まれて、大変ありがたかったですね。10月の『国際福祉機器展』など展示会への出展をはじめ、今後は販路開拓にも力を入れていければと思います」(酒井)
ストローサポートとストップストローについてはネット通販を始めています。カップホルダーについても2024年度内には販売を開始します。
左から
有限会社五味彫刻工業所
本多 次男 氏
小菅 秀和 氏
都産技研城東支所 主任研究員 酒井日出子
有限会社五味彫刻工業所
代表取締役 五味 正彦 氏
中村 大地 氏
安達 喜憲 氏
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