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ハンディキャップをもつ子どもたちのためのストロー補助具を開発

公開日:2023年4月1日 最終更新日:2024年11月11日

ハンディキャップをもつ子どもたちのためのストロー補助具を開発

都産技研と東京都立大学は、ハンディキャップをもつ子ども向けのストロー補助具の開発を行いました。開発品は福祉機器コンテスト2022で優秀賞を受賞しました。本研究に関して、東京都立大学 健康福祉学部 作業療法学科 教授の伊藤 祐子 氏と、技術支援本部 地域技術支援部の酒井 日出子 主任に話を聞きました。

きっかけは「プラスチックストローを全廃して本当に良いのだろうか?」という疑問から

2019年、都産技研の酒井主任は、プラスチック材料を使用しないストローの開発を行っていました(木材や食品がプラスチックの代わりになる。100%天然素材から生まれたストロー)。

「その際に抱いたのが、『本当にプラスチック製ストローは全部なくしていいのか?ハンディキャップをもつ方には、プラスチック製ストローが必要なのではないか?』という疑問でした。市販品を分析し、ハンディキャップをもつ方が飲みものを飲むことに関して抱えている問題を文献で調査したところ、プラスチック製ストローがなくなると困る方がいることがわかりました。共同研究先を探していたところ、2019年に『キッズフェスタ』に出展されていた伊藤教授と運よくと出会うことができました」(酒井)

「飲むという行為は生きるために不可欠ですが、ストローを使うことや飲むことに関して困りごとを抱えている方は多くいらっしゃいます。『こういう道具があったら便利だな』という理想はあっても、なかなか製品化には至りません。酒井さんとであれば、ハンディキャップをもつ子どもたちの助けになるストロー補助具を製品にできるのではないかと思い、共同研究を行うことになりました」(伊藤氏)

全国1782施設への大規模なニーズ調査を実施

まずは、既存の製品を調査するところから研究が始まりました。飲料時補助製品には大きく分けて「ペットボトルに取り付けタイプ」、「持ち手つきマグカップタイプ」、「カップにクリップ留めタイプ」の3タイプがあり、その既存製品を改良して試作品を製作しました。試作品について、全国1782もの施設(※)に向けてニーズ調査を実施しました。

アンケートからは、個々の試作品に対する要・不要の評価から、「ストローが挿し口に固定され過ぎると使いにくいので、ある程度可動域があったほうが良い」、「可愛らしいデザインだと、子どもが遊んでしまって飲むことに集中できない」、「蓋などのかぶせ型だと、振り回す子どもがいる」など、現場ならではの貴重なコメントが寄せられました。

※日本作業療法士協会の会員所属施設名簿に登録があり、各都道府県と政令指定都市に登録されている障害者総合支援法、医療、または児童福祉法関連施設に準拠する児童発達支援施設など

かぶせ型補助具の開発過程の画像
かぶせ型補助具の開発過程
持ち手付きタイプの開発過程
持ち手付きタイプの開発過程の画像

 既存の製品(一番左)から改良を重ね、開発品(一番右)が完成しました。

調査の結果を反映して、さらに改良した3種類の試作品を作業療法士15名に送付しました。アンケート回収後、オンラインによるグループインタビューでユーザー調査(※)を行いました。手探り状態だった研究も、膨大な数のアンケート分析と複数回のグループインタビューを重ね、ニーズを明らかにしたことで、デザインが具現化されていきました。

※飲む動作への支援経験のある作業療法士などの専門家3~6人規模のフォーカスグループインタビューを5~6回実施

試作品の画像1
試作品の画像2
試作品の画像3

当初の試作品(全国1782施設へのアンケート調査時)

改良した試作品(グループインタビュー時)の画像
改良した試作品(グループインタビュー時)

試行錯誤の末、3種類のストロー補助具が完成

ニーズ調査およびユーザー調査で得られた現場からの声をもとに検証を繰り返し、最終的に “ストップストロー”、 “ストローサポート”、“カップホルダー”の3種類のストロー補助具を開発しました。

  • ストップストロー
    発達障害や知的障害のある子どもや肢体不自由の重度の子どもは、ストローを口の奥まで入れてしまうことがあり、喉を傷つけるリスクや、奥歯で噛み切って飲んでしまったりするリスクがあります。“ストップストロー”は、ストローが口の奥に入りすぎることを防止し、保護者や支援者が介助しやすい道具です。
    「ストップストローは既存製品の改良ではなく、今回新たに開発したものです。当初は、柔らかいシリコン素材で作ろうとしていたのですが、子どもが噛んでしまう危険性があるという意見をいただき、硬い素材に変更しました。持ち手がついているタイプは、ストローを使う子どもが介助者の指を噛んでしまうリスクも軽減できます」(酒井)
  • ストローサポート
    “ストローサポート”は、挿し口を楕円にすることで、ストローが左右には回らずに前後だけに動くように工夫されています。カップの横から飲みものの残量を確認して途中で追加することができるほか、コンパクトで持ち運びにも便利です。
  • カップホルダー
    “カップホルダー“は、紙コップや市販のカップに持ち手を付けることができる製品です。脚底部が広くデザインされており、少し乱暴に置いてもカップが倒れにくくなっています。
    「アンケートを実施する際や結果の分析には苦労しましたが、貴重なフィードバックを得ることができ、現場の課題を解決する製品ができあがりました。『キッズフェスタ』や『子ども広場』、『国際福祉機器展』などの展示会に出展したり、『日本生活支援工学学会』で発表したことで、大きな反響をいただきました」(伊藤氏)
ストップストローの画像
ストローサポートの画像
カップホルダーの画像

ストップストロー(左)、ストローサポート(中央)、 カップホルダー(右)※いずれも試作品です

本製品は「福祉機器コンテスト2022」(一般社団法人日本リハビリテーション工学協会主催)機器開発部門で優秀賞を受賞。実際に販売してほしいという声も多く寄せられ、製品化にむけて有限会社五味彫刻工業所との共同研究が決定しました。

「ハンディキャップをもつ子どもたちが暮らしやすくなるための道具は、現状十分にあるとは言えない状況です。今回の開発品が、少しでも子どもたちや保護者の方々の助けになればと思います」(伊藤氏)

「福祉分野の専門家である伊藤教授と、ものづくりの技術をもつ都産技研がマッチングすることで、調査から設計、試作といくつもの段階を経て研究開発できたことを、非常に嬉しく思っています。今後も、生活の質をあげるための製品開発や研究に取り組んでいきたいと思います」(酒井)

開発者の写真

(左から)

技術支援本部 地域技術支援部 プロダクトデザイン 主任 酒井 日出子 

東京都立大学 健康福祉学部 作業療法学科 教授 伊藤 祐子 氏 

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