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トップ選手向け車いすの技術を活用した、一般選手向けバドミントン用車いすの開発

印刷用ページを表示する 更新日:2024年1月15日更新

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都産技研と株式会社オーエックスエンジニアリングは、2017年度から実施している障害者スポーツ研究開発推進事業にて、バドミントン用車いすの共同研究開発に取り組んでいます。東京2020大会では実際に車いすが出場選手に使用され、好成績に貢献することができました。

これを踏まえ、2020年12月から一般選手向けバドミントン用車いすの開発が行われました。共同研究はどのように進められたのか、株式会社オーエックスエンジニアリング 代表取締役社長の山口 高司氏と、都産技研墨田支所の大島 浩幸主任研究員に話を聞きました。

(外部リンク)

新規開発したバドミントン用車いすが東京2020大会で活躍​

​車いすの開発・販売を手がける株式会社オーエックスエンジニアリングは、陸上やテニス、バスケットボールなどの競技用車いすの製造で知られています。2017年度には障害者スポーツ研究開発推進事業の共同研究として、都産技研とバドミントン用車いすの新規開発に取り組みました。完成した車いすは実際に東京2020大会で使用され、女子シングル(車いすWH1)と女子ダブルス(車いす)​で金メダル を獲得しています。 

オーエックスエンジニアリング社屋の写真

 展示されている車いすの写真

こうした成果を踏まえ、都産技研とオーエックスエンジニアリングは、2020年12月から一般選手向けバドミントン用車いすの共同研究を行いました。トップ選手向け車いすの開発で培った技術を、一般の選手が使用する車いすに反映させようという取り組みです。

「前回開発したマグネシウム合金製の車いすは、従来品に比べて軽量であり、このメリットは広くバドミントンを楽しむ方にも有効なものとなります。ただ、トップ選手向けの車いすは非常に高価なため、生産コストの低減が課題となりました」(山口氏)

株式会社オーエックスエンジ​ニアリング代表取締役社長 山口高司 氏の写真
株式会社オーエックスエンジ​ニアリング代表取締役社長 山口高司 氏

マグネシウム(白)とアルミニウム(黒)のサンプルの写真
マグネシウム(白)とアルミニウム(黒)のサンプル

また、もうひとつの課題として「トップ選手と一般選手の体の使い方の違い」がありました。身体能力の高いトップ選手は、素早く前後に動いたり、後ろに大きくのけぞったりしてシャトルに対応します。一般の選手も同様に競技を楽しめるようにするには、そもそも一般選手がどのように体を使ってプレーをしているのか知る必要がありました。

「そこで,車いすバドミントン競技の特徴である,前後の切り返し動作に着目しました.この切り返し動作時の座位姿勢を、3Dデジタイザと光学式モーションキャプチャ により定量化しました。ここで得た知見に基づき、オーエックスエンジニアリングさんによる試作と我々による実証実験を繰り返しました.」(大島)

墨田支所 大島主任研究員の写真
墨田支所 大島主任研究員 
光学式モーションキャプチャによる実験風景の写真
光学式モーションキャプチャによる実験風景

バドミントン特有の動作を補助する専用パーツを開発

競技用車いすは、選手の体格や障害に合わせた調整(フィッティング)を必要とします。共同研究では、一般選手が簡単にフィッティングを行える専用パーツの開発を行いました。専用パーツはゴム製のバンドで、座った状態で膝の前側を押さえることにより、後ろにのけぞるなどの動作を補助することが可能です。

「座った状態で後ろにのけぞると、股関節が少し開き、足が前に出ます。ですので、バンドで膝をしっかり押さえつけてしまうと、のけぞることができません。かといって押さえる力が弱ければ、のけぞったまま戻れなくなってしまう。実証実験のデータを踏まえて、バンドがちょうど良い伸び具合になるよう試作を繰り返しました」(山口氏)

「実証実験のデータから、後ろにのけぞる動作では選手の骨盤が10ミリ~20ミリの範囲で動くことがわかりました。選手自身も私たちも、もっと動いているように感じていたので意外でしたね。感覚や経験といった定性的な情報を、データという定量的なものに落とし込めたおかげで、細部の動きをつかむことができました」(大島)

専用パーツの開発にあたり、理想とする伸び具合を実現する素材はなかなか見つからず、試作を3回ほど繰り返したといいます。改良を重ねるなかで、より多様な身体特性に対応するためのアイデアも生まれました。

「障害の重さやバドミントンの熟練度によって、選手が動く量は異なります。そこで、バンドを止める場所を変えることで、伸び方を好みに調整できるようにしました。今回はバドミントン向けの専用パーツとして開発を行いましたが、他の車いす競技のニーズにも応えられるものができたのではと感じています」(山口氏)

競技用車いすの軽量化技術を日常用車いすへ展開

専用パーツの開発と並行して、車いす本体の改良も進められました。溶接や曲げなど、マグネシウム合金の加工における生産コストを低減することが主な目的です。

「表面処理も課題のひとつでした。マグネシウムは酸化しやすいため、腐食を防ぐためにも表面処理が欠かせません。しかし、一般的な塗装ではうまくいかず、都産技研さんからも情報をいただきながら、さまざまな手法のパターンを試していきました。調整のために車いすを作り直すトップ選手と違い、一般選手はひとつの車いすを使い続けるもの。長期間の使用に耐えうるものを作りたいという思いもありました」(山口氏)

2023年3月に共同研究は終了し、一般選手向けのマグネシウム合金製車いすはオーエックスエンジニアリングにて引き続き開発が継続されています。一方で、2023年11月からまた新たな共同研究もスタートしました。 これまで培った技術を活かし、日常用の車いすにもマグネシウムによる軽量化を行うプロジェクトです。

「車いすでバドミントンをされている方の多くは自動車で体育館に向かいます。車いす自体が軽くなれば、乗せ降ろしなどの動作が楽になりますし、より快適に生活ができます。車いすを使用するうえで、やはり“軽さ”は大きなメリットになると考えています」(山口氏)

マグネシウムは振動吸収性が高い金属ということもあり、新たな共同研究では「乗り心地の良さ」を確かめる実証実験も予定されています。

「次は、快不快という定性的なものを定量化するチャレンジになります。トップ選手の力を最大限に引き出すモノづくりが、最終的に生活用途にまで展開されることに、私たちとしても非常にワクワクしています」(大島)

「バドミントンは海外の競技人口が多く、東京2020大会以降は中国や台湾、韓国などから多く引き合いをいただくようになりました。都産技研さんにサポートいただいたことで、私たちのような中小企業でも競争力がついてきたと感じます。引き続き、ご支援をいただけますと幸いです」(山口氏)

山口氏の写真


ギャラリー

バドミントン用車いす背面の写真

 

バドミントン用車いす脚部の写真

 

バドミントン用車いすの背もたれの写真

 

バドミントン用車いす 本体とタイヤ接合部の写真

 

バドミントン用車いす製作の様子

 

バドミントン用車いす製作の様子

 

山口氏とパイプ加工場の様子

 

 パイプ加工の説明の様子の写真

 

OXエンジニアリング社車いすの歴史のパネル写真

 


(外部リンク)

プロフィール写真

株式会社オーエックスエンジニアリング
代表取締役社長
山口 高司(やまぐち こうじ)氏

都産技研 墨田支所
主任研究員
大島 浩幸(おおしま ひろゆき)

開発メンバー
墨田支所
石堂 均(いしどう ひとし)
墨田支所
佐々木 智典(ささき あきのり)

お問い合わせ先

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