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新素材を活用した、パラアスリート向けバドミントン用車いすの開発

印刷用ページを表示する 更新日:2021年9月1日更新

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都産技研が2017年度から実施している障害者スポーツ研究開発推進事業で、都産技研と株式会社オーエックスエンジニアリングは、東京2020大会に向けたバドミントン用車いすの開発に取り組みました。

2年半をかけて行われた共同研究では、実際に東京2020大会に出場する選手が使用する車いすが生まれています。共同研究はどのように進められたのか、株式会社オーエックスエンジニアリング 代表取締役副社長の山口 高司 氏に話を聞きました。
 

(外部リンク)

マグネシウム合金を使ったバドミントン用車いすを開発

車いすの開発・販売を手がける株式会社オーエックスエンジニアリングは、競技用車いすの製造で知られています。陸上やテニス、バスケットボール用の車いすで選手をサポートし、特にオリンピックでは、1996年のアトランタ大会から計100個以上のメダル獲得に貢献してきました。

東京2020大会では、新たに車いすバドミントンが正式競技となりました。日本は世界ランキング上位の選手を有しており、メダルの獲得が期待されています。その一方で、バドミントン用車いすの開発はあまり進んでおらず、テニス用車いすを流用するなどして対応していました。

「テニスに比べ、バドミントンは前後に対する素早い動きが求められます。車いすには専用のフレームワークが必要になりますし、瞬発力を発揮するには軽量化も無視できません。そこで、都産技研の実施する障害者スポーツ研究開発推進事業の公募応募し、本格的なバドミントン用車いすの開発に取り組むこととしました」(山口氏)


2017年度に始まった共同研究は、オーエックスエンジニアリング、都産技研、長岡技術科学大学、M2デザイン研究所の4者で行われました。トップアスリートに向けた「新素材を活用したバドミントン用車いす開発」をテーマに、オーエックスエンジニアリングでは新たにマグネシウム合金を使用した車いす開発を進めました。

「従来の車いすに使用されるアルミニウム合金に比べ、マグネシウム合金は約30%軽いという特徴があります。ただ、マグネシウム合金は取り扱うのが難しい素材であり、曲げにくく、溶接がしにくいのです。また、表面が非常に腐食しやすいため、塗装も必要になりました」(山口氏)

車いすバドミントンでは、後方や高い位置にあるシャトルに対応するために、背もたれ(バックレスト)の性能も重要になります。これに対し、都産技研ではカーボンファイバー(CRFP)素材の活用や、身体接触部の3D計測及び3Dプリンターによるバックレスト製作を検討しました。

 

ナイロン粉末造形装置の写真

ナイロン粉末造形装置

 

科学的検証と積み重ねたノウハウで「世界と戦える車いす」を

共同研究では、スポーツ科学を専門とする長岡技術科学大学の塩野谷 明 教授による指導のもと、競技用車いすの運動性能を確かめる実証実験も行われました。

実証実験では車いす競技の選手に対し、モーションキャプチャによる動作解析や、筋電計・心電計・肺運動負荷モニタリングによるエネルギー代謝測定が行われました。こうして得られた基礎データは、オーエックスエンジニアリングの車いす開発に大きな前進をもたらしたといいます。 

「これまでの車いす開発は、選手たちからのフィードバックが主な情報源でした。実際に車いすに乗る選手からの『以前より重く感じる』といった感覚を頼りに、試行錯誤を繰り返しながらノウハウを蓄積してきたのです。裏を返せば、新たな競技への対応は5年から10年の時間がかかることになります。今回、基礎となるデータを科学的に取得できたことで、開発期間の大幅な短縮が期待できました」(山口氏)

 

山口氏の写真

 

実証実験で得られたデータは、バドミントン用車いすにも適用され、プレーにマッチしたディメンション(寸法)の決定などに活かされました。「世界と戦える車いすが、2年半のプロジェクトで完成したことに驚きました」と山口氏は話します。

「もともと競技用車いすは市場が小さく、どの競技も登録選手は数百人程度です。そのなかで、我々のような規模の会社が大掛かりな科学的検証を行うのは困難でした。今回のバドミントン用車いすはもちろん、未来につながるデータが取れたことに、共同研究の意義があったと感じています」(山口氏)   

トップアスリート向け車いすの技術を、一般の車いすにも

東京2020大会では、複数名の選手が、本プロジェクトで完成した車いすを使用して試合に臨みます。代表選考の日程上、カーボンファイバーを用いた背もたれは間に合いませんでしたが、マグネシウム合金で軽量化された車いすを選手たちが操ることになります。

「車いすは一つの型を作って終わりではなく、選手ごとの調整(フィッティング)も必要になります。それぞれ障害の重さや部位が異なるため、フィッティングは非常に難しく、使える筋肉や体幹のバランスなども考慮したうえで調整していきました」(山口氏)

本プロジェクトは2019年に終了しましたが、オーエックスエンジニアリングと都産技研の共同研究は継続して行われています。トップアスリート向けの車いす開発を経て、その技術を一般向けの車いすに落とし込むことが次の目的です。

「トップアスリート向けの車いすは非常に高価ですので、一般の選手にも手が届くように、生産技術を含めて検討しています。誰でも気兼ねなく乗れるように、簡単にフィッティングできる専用パーツの制作なども行っています」(山口氏)

また、本プロジェクトで取得した基礎データをもとに、AIで車いすの構造やフィッティングを予測できるシステムの研究も進められています。

「勘と経験に頼っていた部分を、科学的観点から答え合わせができるようになり、開発のスピードもどんどん上がると考えています。今回のプロジェクト以前から都産技研さんには技術面でサポートをいただいており、資源が限られている中小企業には非常に有用です。引き続き、間口の広い支援をお願いできればと思います」(山口氏)


オーエックスエンジニアリングが開発した車いすの写真

オーエックスエンジニアリングが開発したバドミントン用車いす
 

 


 

(外部リンク)

山口氏の写真

株式会社オーエックスエンジニアリング

代表取締役副社長

山口 高司(やまぐち こうじ)

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