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電子機器のノイズを測定する「磁界プローブ」を共同研究により製品化

印刷用ページを表示する 更新日:2021年5月1日更新

磁界プローブの写真

電子計測機器を扱うマイクロニクス株式会社と都産技研は、2019年度の共同研究により、9 kHzの低周波伝導性妨害ノイズの測定に対応した磁界プローブ「MMP500」の開発を行いました。

「MMP500」の製品化は、共同研究の開始から1年あまりという異例の早さで実現しました。共同研究や製品化はどのように進められたのか、マイクロニクス株式会社 生産事業部の樋口 実 氏と、多摩テクノプラザ電子・機械グループの高橋 文緒 主任研究員に話を聞きました。

 

(外部リンク)

電子機器から発生するノイズを計測する

電気・電子機器から発生するノイズ(電磁波)は、周辺の電子機器の誤動作を引き起こす原因となります。自動車や医療機器などの誤動作は、場合によっては命に関わるため、設計段階からノイズの影響を考慮せねばなりません。

設計では「周辺に影響を及ぼすノイズを発生させないこと」かつ「ノイズの影響を受けず満足に動作すること」を考える必要があり、これを電磁両立性(EMC:Electromagnetic Compatibility)と呼びます。世界各国では、EMCに関するさまざまな規制を行っています。電気・電子機器製品は、各国で定められたEMC規格を満たすことで、はじめて市場に出荷することができるのです。

このEMC試験関連の製品を扱う企業が、東京都八王子市に本社を構えるマイクロニクス株式会社です。スペクトラムアナライザや電波暗箱といった、評価機器の製造販売を行っています。

「正規のEMC試験は電波暗室などの専用のサイトで行う必要があり、規格を満たすまで本試験と問題対策を繰り返せば、大幅なコストと時間がかかります。そこで当社では、企業内でデバッグ評価が可能な『EMC試験システム』を提供し、メーカーの開発コスト削減に貢献しています」(樋口氏)

 

マイクロニクスが提供するEMC試験システムの一例の図

マイクロニクス(外部リンク)が提供するEMC試験システムの一例。
電波暗箱やスペクトラムアナライザなどを組み合わせ、対象物のノイズを測定する。

 

ノイズにはさまざまな種類があり、電源ラインや通信ライン(TEL/LAN等)を通じて伝わるノイズは「伝導性妨害ノイズ」と呼ばれます。近年、電気自動車などに使われる電動部品が高圧大電流を必要とする傾向にあり、こうしたパワーエレクトロニクス機器から発生する、低い周波数帯の伝導性妨害ノイズを測定するニーズが高まっていました。

「伝導性妨害ノイズを測定するには、測定対象の回路に専用の装置(擬似電源回路網)を挟み込み、ノイズそのものを取り出すのが一般的です。パワーエレクトロニクス機器は定格電流が高く、これに対応する装置は大型化し容易に評価することが困難となります。できるだけ現場にかかる負荷を軽くできないかと考えていました」(樋口氏)

 

フェライトコアを用いてアンテナを小型化

都産技研の多摩テクノプラザは、10m法電波暗室を含む電波暗室3基を備えたEMCサイトを保有しています。自動車搭載電子機器(車載機器)向けのEMC支援のため2020年1月に開設した「モビリティEMC支援室」では、CISPR25 や ISO 11452 などの国際規格に対応した EMC 試験により、中小企業の車載機器開発をサポートしています。

「正式なEMC試験にはコストも時間もかかります。製造メーカーの皆さまのために、正式なEMC試験の前に電気的に非接触でノイズを測定できる簡易な方法があればと、磁界プローブの基盤研究に着手しました」(高橋)

「磁界プローブ」とは、電流が流れるラインに先端を近づけることで、電流が起こす磁界を検出し、その電流を測定するものです。伝導性妨害ノイズが起こす磁界をプローブによって検出できれば、回路内に装置を挟み込むことなく、ノイズを測定することができます。

2016年に行われた基盤研究では、磁性材料であるフェライトコアを用いることでアンテナの小型化を実現。広範囲に及ぶ周波数帯域のノイズが測定できることを確かめました。

「基盤研究で開発した技術を踏まえ、磁界プローブを製品化できないかと考えました。そこで、EMC関連で非常に多彩なチャレンジをされているマイクロニクス様ならと、共同研究を提案しました」(高橋)
 

10 m法電波暗室の写真

多摩テクノプラザのEMCサイトに導入されている
「10 m法電波暗室」

多摩テクノプラザ EMC

基盤研究の発表要旨

2016年度基盤研究「低周波ノイズを測定可能とする
広帯域EMI簡易測定用アンテナの開発」

都産技研の基盤研究について

 

研究だけでは意識できなかった「量産化」という壁

こうして2019年5月、磁界プローブの製品化に向けた共同研究を開始。都産技研側はアンテナの開発を、マイクロニクス側は回路および筐体設計の検討を中心に進めました。

製品仕様を決めるにあたり、ペンタイプの小型形状はそのままとすること、その上で測定できる周波数帯域は9 kHzからとすることが求められました。基盤研究で開発したアンテナは150 kHzから200 MHzの周波数に対応していたため、都産技研ではさらに低い周波数帯域への対応が必要だったといいます。

「アンテナにコイルを多く巻き付ければ低い周波数に対応できますが、その分サイズが大きくなり、測定可能な周波数の範囲も狭まってしまいます。巻き数を極力減らしつつコイルの特性を上げるという、矛盾した状況でのチャレンジングな試みでした」(高橋)

コイルの巻き方や磁性体の選定などを検討し、11月ごろには低周波数のノイズ測定が可能な磁界プローブが完成。しかし次に立ちはだかったのは「量産化」という壁でした。

「製品化では量産した製品すべてが同等の特性である必要があります。基盤研究は量産まで意識していなかったので、特性がばらつかないように製造する方法を考えなければなりませんでした」(高橋)

「製品化においては、寸法精度やパラメータなどの再現性に加え、製造コストも重要な要素です。量産に向けた再現性の高いものづくりが、この共同研究で最も難しかった点だと思います」(樋口氏)

 

共同研究開始から1年あまりで製品化へ

量産の検討は、マイクロニクス側で試作品をつくり、それを都産技研で評価しながら進められました。

「都産技研の3Dプリンターで試作品の筐体を作っていただいたので、開発コストや時間短縮につながりました。特性の評価も、サンプルをお渡しすれば1週間程度で対応いただけるスピード感だったので、非常に効率良く進みましたね」(樋口氏)

こうして、2020年1月におおよその見通しが立ち、共同研究の期限である2020年3月には立ち上げが完了。9 kHzの低周波伝導性妨害ノイズの測定に対応した磁界プローブ「MMP500」として、6月からマイクロニクスより販売がスタートしました。
 

磁界プローブの写真

右側が磁界プローブ「MMP500(外部リンク)」。
左側のスペクトラムアナライザに接続して使用する。

磁界プローブの使用例の写真

測定対象のケーブルに磁界プローブの先端を当てることで、伝導性妨害ノイズを測定。
左側のスペクトラムアナライザに結果が表示される。


「今回が初めての共同研究でしたが、新たな製品を生み出すうえでとても有効な手段だと思いました。メーカーとして開発工数が限られているなか、アンテナ部分をお任せできたのは大きなメリットだと感じています。機会があれば、また一緒に開発ができればと思います」(樋口氏)

「多摩テクノプラザの研究員として、自分の研究を多摩地域の企業に製品化していただいたことを、とてもうれしく思います。引き続きお客さまのニーズに耳を傾けながら、製品化に向けた共同研究ができればと思いますので、ご興味がありましたらお声がけいただけますと幸いです」(高橋)


 

(外部リンク)

マイクロニクス株式会社
生産事業部

樋口 実(ひぐち みのる)

 

事業化支援本部 多摩テクノプラザ
電子技術グループ
主任研究員
高橋 文緒(たかはし ふみお)

お問い合わせ先

技術相談依頼試験・機器利用について

技術相談受付フォームはこちらから(外部リンク)

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