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【シリーズ】製品の特性に合わせた音響性能の評価事例 - 第3回:使用場所の音環境を考慮した製品音の評価方法 -

公開日:2024年12月1日 最終更新日:2025年3月17日

【シリーズ】製品の特性に合わせた音響性能の評価事例 - 第3回:使用場所の音環境を考慮した製品音の評価方法 -

都産技研では、騒音レベル測定や吸音率測定などの定型的な音響性能の依頼試験の他、対象となる製品の特性に合わせたオーダーメード型技術支援や共同研究をご提案しています。

本シリーズでは、そのような特色ある測定事例の一部をご紹介いたします。第3回の本記事は、使用場所の音環境を考慮した製品音の評価方法について解説します。

第1回:個室型執務ブースの遮音性能の評価についての記事はこちらをご覧ください
第2回:降雨時に生じる雨音の評価についての記事はこちらをご覧ください

背景騒音を考慮した音質評価

製品の付加価値の一つとして、静音性が様々な製品に取り入れられています。静音性の基準として、一部業界では 35 dB 未満*1といった基準があるものの、製品音の印象は使用環境により変化するため、明確な指標は存在しないのが現状です。
使用環境の一つとして、使用場所の音環境(背景騒音)が考えられます。騒がしい場所で使うのか、静かな場所で使うのかによって、同じ製品音でも聴こえ方は異なってきます(図1)。
そこで都産技研では、背景騒音下での聴こえ方を考慮した製品音の評価に取り組んでおります。背景騒音の有無による心理状況の変化について主観評価実験を実施し、評価指標を検討した結果をご紹介します。
 

図1 使用環境の例

*1 家庭電気製品製造業における表示に関する公正競争規約 別表 5,家電公取協議会

背景騒音を考慮した製品音評価実験

ここでは、様々な使用場所が考えられる、ハンディファンを対象として実験しました。ハンディファンの動作音に対して音圧レベルの異なる3種類の背景騒音(オフィス、ホテルロビー、電車内の環境音)を組み合わせた音源を作成し「ハンディファンの動作音が気になると思うか」について、「非常にそう思う-全くそう思わない」を両端に7段階のリッカートスケール尺度で被験者に評価を求めました。

各背景騒音における、ハンディファンの動作音に対する「気になる」感覚の主観評価値を図2に示します。どの背景騒音においても製品音を57dBAで提示しているのですが、組み合わせる背景騒音の音量によって気になる感覚が異なっていることが分かります。製品音が背景騒音によって聞き取りにくくなる現象(マスキングと呼ばれます)により、このような結果となっていることが考えられます。
 

図2 各背景騒音における主観評価

ここで、背景騒音によるマスキングの影響が加味された製品音の大きさを表す指標として、「マスクトラウドネス*2」があります。ラウドネスという音の大きさを表す心理音響評価量を基に計算されます。(心理音響評価量についての詳細はこちらをご覧ください
各背景騒音下でのハンディファン動作音について、マスクトラウドネスを計算した結果を表1に示します。これより、マスクトラウドネスも気になる感覚と同様に背景騒音の音量によって変化していることが分かります。また、気になる感覚とマスクトラウドネスの相関関係を確認したところ、統計的に有意に相関があることが確認できました。
このように、製品音に対する印象は背景騒音の影響を受けるため、製品が使用される環境を考慮した騒音評価が重要であり、その評価指標の一つとしてマスクトラウドネスが有用であるといえます。

表1 各背景騒音におけるマスクトラウドネス

 

オフィス
50dBA

ホテルロビー
60dBA

電車内
70dBA

マスクトラウドネス[sone]

9.06

1.56

0.02

*2 E. Zwicker,Procedure for calculating partially masked loudness based on ISO 532B,Proc. Inter-nose’87,l021-1024,1987

お客様の製品に合わせた音響性能評価のご提案

本記事では、製品の特性に合わせた音響性能の評価事例として「使用場所の音環境を考慮した製品音の評価方法」についてご紹介しました。このような評価方法を活用して、ハンディファンに限らず、様々な背景騒音、製品を対象とした技術支援、共同研究も可能です。例えば、マスクトラウドネスを用いた製品の使用環境における騒音基準値の検討などの応用が考えられます。
また、製品の使用環境として「他者の存在」が、騒音評価に与える影響についても着目しており、他者への配慮を基準とした新たな騒音評価の研究にも取り組んでいます。*3
このような内容についてご相談がございましたら、お気軽にお問合せください。

*3 中村,宮入,服部,背景騒音および他者の存在が製品音に対する印象に及ぼす影響,音講論集(秋),1407-1408,2024

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