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マイクロモビリティの「電欠」を解決。燃料電池による給電システムを搭載した電動キックボードを開発

印刷用ページを表示する 更新日:2023年11月15日更新

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都産技研では、従来から培ってきた燃料電池のノウハウを生かし、燃料電池による給電システムを搭載した電動キックボードの開発を展開しています。水素エネルギーとマイクロモビリティを組み合わせた取り組みは、どのように進められたのでしょうか。開発に携わったデジタル化推進室 情報基盤係の小林 祐介副主任、開発企画室 外部資金係の入川 涼係長に話を聞きました。​

 

(外部リンク)

燃料電池と電動キックボードを組み合わせ、水素エネルギー社会に貢献

政府は脱炭素社会に向けて、2050年までに温室効果ガスの排出を、全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指しています。そこで、温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギー源として注目されているのが水素です。

水素エネルギー社会を実現するには、インフラ整備や製造コスト低減などといった課題解決のほか、多様な分野における新たな需要の創出も欠かせません。デジタル化推進室情報基盤係の小林副主任は、その需要の一つとして「電動キックボード」に着目しました。

小林さんの写真1

「電動キックボードをはじめとするマイクロモビリティは、地域の手軽な交通手段として注目を集めています。近年は道路交通法が改正されるなど普及に向けた動きが進んでいます。そこで、燃料電池とキックボードを組み合わせた乗り物を開発することで、新たな需要を創出し、水素エネルギー社会に貢献できないかと考えました」(小林)

電動キックボードなどのバッテリーで駆動するモビリティは、長距離の走行などによってバッテリー切れとなる「電欠」を起こす可能性があります。再び走行するには充電設備が必要となるほか、バッテリーが再充電されるまで長時間待たなければなりません。

この課題を解決するため、電動キックボードに搭載可能な小型の燃料電池給電システムの試作機を開発しました。

「燃料電池は、リチウムイオン電池のように内部に電気を蓄えるわけではありません。燃料電池内で水素と酸素を反応させて発電する、言わば『小さな発電所』なのです。この給電システムは、水素ボンベをセットすることで燃料電池に水素を供給し、短時間でバッテリーへの給電を行います。80リッターの水素で航続距離を約10km伸ばすことが可能です。発電には水素と酸素しか使用しませんので、水のみを排出し、温室効果ガスを発生することはありません」(小林)

燃料電池の写真

これまでの自主活動で培ったノウハウを集結

給電システムには最大2本の水素ボンベ(容量60~400リットル程度)を搭載でき、燃料電池内ではボンベから供給された水素と、大気中の酸素を反応させて発電を行います。他にも、出力電圧・電流を変換するコンバータや排気の制御基板などが搭載されています。

「燃料電池は、電力を瞬間的に大きく出力させることが難しいため、キャパシタを介して蓄電させるといった対策が必要でした。また、水素を供給する圧力が一定でないと、燃料電池内に積層された膜を破損してしまうため、水素ボンベから燃料電池への水素の供給圧力を一定にすることにも苦労しました」(小林)

こうした燃料電池を利用する際のノウハウは、業務外で自主的に活動を行ってきた燃料電池駆動車の製作で培ってきたと言います。都産技研では、有志のメンバーで、燃料電池車の製作をして、2012年からは秋田県で開催されるエコランレース「ワールドエコノムーブ」にメンバーの自費で参加しており、小林副主任や入川係長も車体の開発に参加していました。

入川さんの写真

「『ワールドエコノムーブ』の燃料電池部門は、各チームが同じコンディションにおいて、燃料電池の使用方法や水素の供給方法を工夫して、決められた時間内での走行距離と水素の消費量を競うレースです。都産技研では、業務外の自主活動として、各部署からの有志による「チーム都産技研」を結成し、業務時間終了後や休日に活動しながら2019年までほぼ毎年出場していました。私は、最初ドライバーとして誘われたのですが、最終的に開発まで全部やっていましたね。レースへの参加や製作を通して、水素や燃料電池の取り扱いについて知見を得ることができました」(入川)

今回の電動キックボード給電システムは、都産技研内の各部署の職員が協力して開発をする協創的研究開発で行い、これまで燃料電池車の制作に携わったメンバーも今回の開発に携わってもらいました。
「各メンバーは、金属加工や回路設計、機械設計、電気回路の制作、各種評価といった得意分野があり、各自で分担しながら開発を進めました。メンバーそれぞれが、専門性を持った方々ですから、とても心強かったですね」(小林)

小林さんの写真2

燃料電池は、温度を一定に制御することで安定した発電が行われます。燃料電池車では搭載するスペースがあるため、ポンプで冷却水を循環させる「水冷」によって発熱を抑えていました。一方、電動キックボードに搭載する給電システムは、設置箇所などの都合から冷却水は使えず、走行時に受ける風を利用した「空冷」にせざるを得なかったといいます。

「今回初めて空冷タイプの燃料電池を使いました。水冷式に比べて、より繊細な取り扱いが必要なため、取り扱いに慣れるまで時間がかかりましたね。メンバーの協力があったおかげで、開発期間は限られていましたが、燃料電池給電システムを搭載した電動キックボードの試作機を完成させ、簡易な評価まで行うことができました。」(小林)

電動キックボードの写真1
電動キックボードの写真2

水素エネルギーに取り組みたい企業様はご相談ください

今回開発した給電システムは、水素を供給すれば、バッテリーチャージャーとして機能します。また、電動キックボード以外にも、電動車椅子やドローンといったモビリティや、災害時の非常用電源にも応用が可能です。

「水素は、宇宙で最も多く存在する元素です。豊富な資源をエネルギーに変えられる技術として、燃料電池には可能性を感じています。特に資源に乏しい日本では、水素エネルギーの活用は欠かせないものとなるでしょう。都産技研でも、燃料電池車や本システムを通じて水素に関するノウハウが蓄積されていますので、ご興味がありましたら、お気軽にご相談下さい」(小林)

「『モビリティの開発を進めたい』『水素エネルギーに興味がある』『カーボンニュートラル実現に向けて取り組みたい』といった方がいらっしゃれば、都産技研までご連絡くださると嬉しいです。(入川)」

都産技研では、技術開発・製品開発を目的とした共同研究をさまざまな分野で行っています。共同研究にご興味のある方は都産技研へご相談ください。​


(外部リンク)

小林さんプロフィール写真

デジタル化推進​デジタル化推進室 情報基盤係  
(開発当時:ロボット技術グループ)  ​
副主任​
小林 祐介(こばやし ゆうすけ)

入川さんプロフィール写真

企画部 開発企画室 外部資金係​
係長
入川 涼​(いりかわ りょう)

開発メンバー(所属は開発当時)

プロジェクト企画室 渡部友太郎
電気技術グループ 新井宏章
電気技術グループ 武内陽子
通信技術グループ 滝沢耕平
城東支所 吉村僚太
ロボット技術グループ 大塚奈々
電子技術グループ 髙橋文緒

お問い合わせ先

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