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「印伝」を用いたルームシューズ開発を技術面から支援。職人とデザイナーの二人三脚で新商品ができるまで

印刷用ページを表示する 更新日:2023年9月15日更新

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有限会社印伝矢部は、日本の伝統工芸品である「印伝(いんでん)」を用いたルームシューズを新たに開発しました。新商品開発では、「東京手仕事」プロジェクトによる総合支援のほか、都産技研が技術支援を行っています。

「印伝のルームシューズ」はどのように作られたのか、有限会社印伝矢部の矢部 祐介 氏とプロダクトデザイナーの友岡 洋平 氏、「東京手仕事」プロジェクトを主催する東京都中小企業振興公社城東支社の中川 祐一 氏、そして都産技研城東支所でプロダクトデザインの支援を担当する加藤 貴司 主任研究員に話を聞きました。

(外部リンク)

伝統工芸の技術を活かした新しいチャレンジを

印伝とは、鹿革をなめして漆で模様付けをする、日本の伝統工芸品です。大正13年に創業した有限会社印伝矢部は、親子三代にわたって印伝の技術を引き継ぎ、財布やバッグなどの鹿革製品を手がけてきました。
今回、新たにルームシューズを手がけるきっかけとなったのは、東京都中小企業振興公社が主催する「東京手仕事」プロジェクトへの参加でした。

「『東京手仕事』プロジェクトは、東京の伝統工芸品産業の商品開発と販路開拓​を支援する取り組みです。時代の変化に対応した新たな商品を開発するため、伝統工芸品事業者とビジネスパートナー(デザイナー等)を公募し、双方のマッチングから支援を行っています」(中川氏)

矢部氏は「印伝の技術を用いた新商品」を求めて“マッチング会“に参加し、複数のデザイナーから提案を受けました。その中で興味をひいたのが、友岡氏によるルームシューズの提案だったといいます。

「財布やバッグとも違う革製品でありつつ、自社でも実現できそうなところに興味をひかれました。靴は手がけたことがないので、新たなチャレンジができるのも魅力に感じましたね」(矢部氏)

「ルームシューズを提案した理由の一つに、『矢部さんが未経験のもの』がありました。チャレンジすることで新たな知見や経験が生まれ、それがさらに印伝矢部さんの他の製品作りにつながれば、という思いもあったんです」(友岡氏)

有限会社印伝矢部 矢部祐介氏の写真

有限会社印伝矢部 矢部 祐介 氏

プロダクトデザイナー EETY/一般社団法人MEWO 友岡 洋平氏の写真

プロダクトデザイナー EETY/一般社団法人MEWO
友岡 洋平 氏

東京都中小企業振興公社  総合支援部 城東支社  中川 祐一 氏の写真

東京都中小企業振興公社
 城東支社 中川 祐一 氏

2022年7月にマッチングが行われ、8月から開発がスタート。矢部氏が最初に着手したのは、既存のルームシューズやスリッパの「研究」でした。

「靴に関する知識がないので、まずはネットを中心に情報をかき集めました。それを元に、さまざまな形のルームシューズを生地で作ってみて、作りを学んだり、革製品で実現できるかを考えたり……1ヶ月ほど研究に費やしていましたね」(矢部氏)

友岡氏と矢部氏の写真

中小企業の実状に寄り添った技術支援

ルームシューズの制作は、友岡氏が型紙を作り、それを元に矢部氏がサンプルを作り上げ、フィードバックを繰り返しながら進められました。

「既に完成されたイメージに近づけるというより、一緒に作り上げていった感がありますね。『こうできないか』と提案すると、すぐに矢部さんから『こうしてみました』とサンプルが返ってきて。何度も微調整を繰り返しながら、一緒にステップを上がっていくような感触がありました」(友岡氏)

友岡氏の写真

 

​型紙の説明

​型紙の説明

 

開発では、公的機関の支援も積極的に取り入れたといいます。浅草にある東京都立皮革技術センター台東支所からは、縫製や試験についてアドバイスを受け、素材を牛革から柔らかな山羊革に変更。加工の難易度は増しましたが、よりフィット感を生み出すことに成功しました。

10月末には試作品が完成しましたが、次の課題は「サイズ展開(グレーディング)」でした。財布やバッグと違い、ルームシューズは身に付けるもの。その人のサイズに合うものを提供する必要がありますが、人によって足の形は違うため、どこかでサイズという“線”を引かなければいけません。

そこで友岡氏が訪れたのが、都産技研のプロダクトデザイン部門でした。支援を担当した加藤主任研究員は「実はグレーディングに正解はないんです」と説明したといいます。

「服のサイズにはS・M・L・XLといった区分けがありますが、ブランドによって実際の大きさは異なります。ヒップホップ系のゆったりとした形のMサイズもあれば、モード系の体にフィットした形のMサイズもある。つまりグレーディングは『こういう人をターゲットにしている』という、ブランドからのメッセージでもあるわけです」(加藤)

 

加藤主任研究員の写真
​プロダクトデザイン担当 加藤貴司

 

グレーディングの方針を定めるため、加藤主任研究員は二つの手法を提案しました。一つは、産業技術総合研究所が提供する「人体寸法・形状データベース」※ から、日本人に多い足のサイズを参照すること。もう一つは、市販品のインソール(靴の中敷き)をいくつかをピックアップし、サイズの区分けを参考にすることでした。

「加藤さんのアドバイスを受け、市販品のインソールを参考にしたうえで、MとLの2サイズを展開することにしました。わかりやすい説明に加えて、具体的な手法も提案いただき、本当に助かりましたね」(友岡氏)

「人体に即したサイズの抽出は『対象者を数百人集めて実測する』のが王道のアプローチです。ただ、これは大企業なら可能でも、中小企業には難しいでしょう。中小企業の実状に寄り添い、現実に即したアドバイスができるところに、都産技研の意義があると考えています」(加藤)

産業技術総合研究所 AIST/HQL人体寸法・形状データベース2003​

「東京手仕事」プロジェクトで優秀賞を受賞。さらに印伝の魅力を伝わるように

​こうして2023年2月末、最終的な完成品が「東京手仕事」プロジェクトに提出されました。ルームシューズのアッパー部分には、今回のプロジェクトに向けてデザインした柏の模様の印伝が表現されています。

ルームシューズの写真

 

印伝による柏の模様

 

「印伝は、その模様も味わいの一つです。蜻蛉(とんぼ)や小桜、青海波など伝統的な模様はたくさんありますが、今回は友岡さんがオリジナルの柏の模様を作ってくれました。この模様はロゴとして箱にもデザインされ、ブランドイメージとして機能しています」(矢部氏)

「東京手仕事」プロジェクトでは、開発終了後に商品発表会を開催し、特に優秀な商品には都知事賞・公社理事長賞・優秀賞が授与されます。「印伝のルームシューズ」は、斬新な取り組みとチャレンジが評価され、優秀賞を受賞しました。

現在「印伝のルームシューズ」は、コレド室町テラスの「日本百貨店」で取り扱っているほか、ECサイト「小粋屋東京」でオンライン販売を行っています。今後は催事などでお客さまの声を直接聞きながら、さらにルームシューズの品質を高めていくほか、柏の模様を他の商品にも用いるといった横展開も検討されています。

「デザイナーの方と商品を開発すること自体、今回が初めての経験でした。友岡さんからの提案は『こういう考えもあるのか』と新鮮で面白かったですね。通常業務と並行させるのは大変でしたが、貴重な経験ができたと感じています」(矢部氏)

矢部氏の写真

「矢部さんは、こちらの考えを汲んでくれるだけでなく、『なにが可能か』『なにが不安か』をしっかり言葉にしてくれるので、とてもやりやすかったですね。今回の成果を踏まえて、今後さらに印伝の魅力が伝わればと思います」(友岡氏)

友岡氏の写真

※東京都城東地域中小企業振興センターは全面的な改修工事を行うため、2023年10月より休館します。公社城東支社は仮移転事務所で、都産技研城東支所のプロダクトデザインは本部で支援を実施しています。ぜひご利用ください。


 

(外部リンク)

中川氏、友岡氏、矢部氏、加藤主任研究員集合写真

(左から)
東京都中小企業振興公社 城東支社

中川 祐一

EETY/一般社団法人MEWO
友岡 洋平

有限会社 印伝矢部
矢部 祐介

東京都立産業技術研究センター
プロダクトデザイン担当 主任研究員

加藤 貴司

関連情報​

印伝矢部 製品写真

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