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酸化スズ系透明導電膜のウェットプロセスによる新規パターニング技術の開発

印刷用ページを表示する 更新日:2022年6月15日更新

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酸化スズ系透明導電膜は、現在最も普及しているITO透明導電膜と比べて、希少元素を含まず、耐候性・耐薬品性に優れる特長を有しており、一部の分野では既に実用化されています。しかし、ウェットプロセスによるパターニングが困難であることが課題となっています。本研究では、酸化スズ系透明導電膜のウェットプロセスによるパターニング技術を新たに開発しました。

計測分析技術グループ 副主任研究員 小川 大輔

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研究の背景

透明導電膜は液晶パネル、発光ダイオード、太陽電池など、光と電気とを用いるオプトエレクトロニクスデバイスに欠かせない材料です。現在、最も普及している透明導電膜は酸化インジウムスズ(ITO)ですが、主成分に希少元素のインジウムを用いており、供給やコストの面で不安があります。

二酸化スズ(SnO2)系透明導電膜は、資源量豊富なスズを主成分とし、ITOよりも耐候性や耐薬品性に優れ、薄膜シリコン太陽電池の透明電極や曇り止めガラスとして半世紀以上の実用化の歴史を持ちます参考文献1。近年も薄膜の成長方位を制御することで物質本来の高移動度を達成可能なことが報告されるなど、古くて新しい材料です参考文献2

しかし、耐薬品性に優れるという特徴は、酸等を用いたウェットエッチング注1による膜除去・パターニング注2が困難なことと表裏一体です。一般に、透明導電膜は用途に応じて適宜膜除去・パターニングして用いられます。ITOではウェットエッチング液が市販されていますが、SnO2系透明導電膜では、先述の通り耐薬品性が高いことから、高価なレーザー加工や、製品出荷後不良の懸念があるサンドブラストなどによるパターニングが主流です(表1)。

表1 二酸化スズ系透明導電膜とITO透明導電膜の比 二酸化スズ系透明導電膜とITO透明導電膜の比の表

 

SnO2系透明導電膜のウェットプロセスでの膜除去・パターニング技術を開発できれば、レーザー加工やサンドブラストに代わる技術となり、コストダウンや製品不良率低減が期待できます。

なお、SnO2のウェットエッチングに関しては、揮発性の強酸を用いる方法が少数報告されています。基本的な考え方は、SnO2を溶解性のより高いSnOに還元した上で溶解させるというものです。

例えば、ヨウ化水素酸を用いると、SnO2を溶解させることができます参考文献3。 また、亜鉛粉末と過剰量の塩酸とを用いると、亜鉛が溶解して発生した水素ガスがSnO2を還元し、膜が塩酸に溶解します参考文献4。しかし、これらの手法は反応性の高さからエッチングのコントロールが困難です。亜鉛と塩酸を用いる手法についてはさらに、亜鉛スラッジが生じ、公害処理上廃液処理を行う必要があり、製造上の取り扱い性に問題があります。

 

注1 ウェットエッチング: 対象を腐食・溶解する液体(酸、塩基など)の薬品を用いたエッチング方法。

注2 パターニング: ある基板上に成膜された材料の一部を除去して所望のパターンを形成すること。

 

参考文献1: 日本学術振興会透明酸化物光・電子材料第166委員会 編、『透明導電膜の技術(改訂3版)』、オーム社 (2014)

参考文献2: ​M. Fukumoto, S. Nakao, K. Shigematsu, D. Ogawa, K. Morikawa, Y. Hirose, and T. Hasegawa, Scientific Reports 10, 6844 (2020).

参考文献3: ​V. K. Gueorguiev, L. I. Popova, G. D. Beshkov, and N. A. Tomajova., Sensors and Actuators A 24(1), 61 (1990).

参考文献4: G. Bradshaw and A. J. Hughes, Thin Solid Films 33(2), L5 (1976).

 

水溶液中での電圧印加による還元を経由した二段階のSnO2膜除去プロセス

東京都立産業技術研究センターでは、SnO2系透明導電膜をウェットプロセスでパターニングする技術の開発に取り組みました。その結果、SnO2膜に水溶液中で電圧印加して金属スズにまで還元してから除去する二段階のプロセスを開発しました(図1)。

本研究で開発したプロセスの概要図

図1 本研究で開発したプロセスの概要

 

金属スズまで還元されていることは、エックス線回折により確認しました。開発した膜除去方法は、市販のテープ類、スクリーン印刷で塗布・乾燥したインキ、フォトレジスト注3など、種々のマスクと適宜組み合わせることが可能です。(なお、マスクの種類・強度によっては、水の電気分解によって生じる気泡でマスクが剥がれてしまう場合があります。)

具体的な手順の例を図2に示します。なお、第一段階にグルコン酸水溶液を用いる手順では、30 Vの直流電圧を印加しても、水の電気分解による気泡がほとんど発生せず、気泡によるマスク剥離は生じにくいため、さまざまな種類のマスクが利用できます。

 

実際の処理例の図

グラフ

図2 実際の処理例

 

本手法によってパターニングしたSnO2系透明導電膜の一例を図3に示します。(処理結果を見やすくするため、本来は可視光に対して透明な導電膜が見えるように撮影した画像となります)
なおパターニング方法としては、フォトリソグラフィでマスクパターンを作製した後、図2の例1の組み合わせで膜除去を行っております。

図3で示すように、フォトリソグラフィと組み合わせることで、0.1 mm幅の膜除去も実現可能であることがわかりました。また、SnO2膜が完全に除去されていることは、走査電子顕微鏡による観察・元素分析や、ガラス基板の透過・反射スペクトル測定、抵抗測定などから確認しました。

 

SnO2膜除去後の光学顕微鏡像

図3 SnO2膜除去後の光学顕微鏡像。(a) 低倍率像 (b) 高倍率像

 

 

図2の例3のように、同一の水溶液を用い、印加する電位条件を変えることでもSnO2膜を除去可能であることから、電解マーキング装置のマーカーと組み合わせることで、流れ作業的にSnO2膜を除去できることも確認しています。

以上の成果は特許出願中です。

注3 フォトレジスト: 光に反応してエッチングに耐える性能を持つ、ポリマー・感光剤・溶剤を主成分とする液状の化学薬剤

 

中小企業支援への技術シーズ展開を目指して

今回開発したパターニング技術は、水溶液を用いるものであるため、レーザー加工などと比べて安価であり、スループットに優れます。また、サンドブラスト加工では避けられない基板への傷もなく、製品出荷後の不良を減らすことが可能です。

本技術によって、ウェットプロセスによるSnO2系透明導電膜のパターニングが可能となりました。ITO代替透明導電膜の実用化・加工コストダウンに興味のある企業さまとの共同研究・事業化のご相談をお待ちしております。どうぞお気軽にお問い合わせください。

 


 

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事業化支援本部 技術開発支援部

計測分析技術グループ 副主任研究員

小川 大輔(おがわ だいすけ)

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