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斜行を活かした身体に沿う無縫製ニット「Spiral MiGU」(スパイラル ミグ)が地産地匠アワード2025優秀賞を受賞

公開日:2025年11月4日 最終更新日:2025年11月4日

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都産技研ではオープンイノベーションの取り組みとして企業や大学、専門機関と連携し、技術研究会を運営しています。技術研究会の一つである「ユニバーサルファッション製品の企画開発研究会」(以下、ユニファ研究会)で開発した無縫製ニットのインナー「Spiral MiGU」が9月に株式会社中川政七商店主催の地産地匠アワード2025で優秀賞を受賞しました。

ユニバーサルファッション製品の企画開発研究会

2001年に特定非営利活動法人ユニバーサルファッション協会が設立されました。その際、都産技研との技術研究会「ユニファ研究会」が結成され 、現在も活動を続けています。年齢、体型、障害などに関わらずファッションを楽しめる社会の実現を理念とし、衣服におけるユニバーサルデザインを研究しています。研究会のメンバーは繊維製品の専門家や研究者で構成され、研究課題に対してアイデアや試作を共有しながら研究を進めています。

2014年から「体にやさしいインナー」というテーマで開発を始め、さまざまな素材、縫製、パターン、着脱方法などを検討してきました(図1)。約10年の期間を経て、今回の「Spiral MiGU」の製品化にたどり着きました。

図1 TIRI NEWS 2018年10月号のユニファ研究会の記事

斜行を取り入れた無縫製ニットSpiral MiGU

無縫製ニットはホールガーメント(株式会社島精機製作所の商標登録)とも呼ばれ、一着丸ごと立体的に編み上げる、縫い目のない製品です。縫い目がないため着心地がよく、生産時の糸のロスが少ないなどのメリットがあります。

無縫製ニット製品の生産では、編立(糸をループ状に編んで布地を作る)時に糸の影響を強く受け、「斜行」という現象が見られます。これは糸の撚り方向に編地が意図せず曲がってしまうことを指し、ニット生産における難所の一つとされています(図2)。斜行した製品は通常は不良品となりますが、この「曲がる」という現象を逆にメリットとして捉え、機能性・デザイン要素として活用したのが、Spiral MiGUです。MiGUはMake it Gentle to Universal (やさしさをすべての人に届けるユニバーサルなものづくり)の頭文字をとったものです。

図2  S撚り(左回り)とZ撚り(右回り)の糸による撚り方向の違いが、編地の斜行に影響を与える様子

ユニバーサルデザインと快適性の向上

Spiral MiGUの特徴は、着用すると編地がバイアス方向(編地の斜め45°の方向)に伸びるため、独特な伸縮性があり、どのような動きにも対応できることです。通常のかぶる動作でも着脱できますが、足からの着脱も可能です。腕を上げることが難しい方や高齢の方にも着用しやすいユニバーサルデザインになっています(図3)。

また、材料選定における特徴としては、S撚りとZ撚りの両方の糸を使用している点が挙げられます。開発中の最初のサンプルではZ撚りの糸だけを使用したため、右袖も左側に斜行が見られ、肘の屈曲と逆方向となって着用時の快適性が損なわれていました。そこで、右腕にはS撚りの糸を使用し斜行を反転させることで、右腕の動作に違和感のない衣服形状を生み出し、着用時の快適性を向上させました(図4)。

図3 腕を上げずに足から履くように着用することも可能なデザイン 
図4 右腕のみS撚りの糸を使用し、自然な衣服形状を実現

産地内完結型の生産工程と品質向上への取り組み

Spiral MiGUの生産を行っている「泉州産地」 (大阪府南西部)では、紡績や染色、後加工などものづくりの工程がネットワーク化され、あらゆるニット製品に対応できます。

「斜行」のデザインを実現するには、原料にZ撚りの強撚糸を使うことで斜行を促すとともに、着用しやすい衣服形状を保つ必要があります。この適切な衣服形状を実現するには、試編み※1を重ねることで編地の斜行率を算出し、斜行率を無縫製ニットのCAD(Computer-Aided Design)設計データに反映させるという試行錯誤が必要です。その結果、斜行と適切な衣服形状の両立を実現しています(図5)。

編立だけでなく、糸始末、縮絨(しゅくじゅう)※2、プレス、検品といった生産工程も産地内ですべて完結できるところが泉州産地の強みと言えます。 Spiral MiGUでは、シャリ感(肌に張り付きにくい涼しげな風合い)が特徴の強撚糸を使用しているため、風合いにやや硬さが感じられる課題がありました。しかし、産地の協力のもと、製品編立後の縮絨を強く入れることで、肌触りの良い製品に仕上げることができました。なお、風合いの評価については墨田支所と協力し、KES力学・表面試験機※3を使用して評価を行いました。

※1 試編み:製品化前に小規模に編んで、素材や形状、風合いなどを確認・調整する工程
※2 縮絨:ニット製品の仕上げ工程で、洗浄や熱処理によって繊維を収縮させ、風合いや寸法を安定させる加工
※3 KES力学・表面試験機:布や繊維製品の「風合い(触り心地)」を数値化して評価するための装置

図5 無縫製ニットを生産している編機

Spiral MiGUが実現したいこと

Spiral MiGUは、泉州産地のニット生産技術を活かし、高付加価値で多くの方が着用しやすいユニバーサルファッションの実現を目指しています。ユニファ研究会では今後もSpiral MiGUの新しい展開を検討していく予定です。

また、ユニファ研究会はデザインや繊維製品に関心のある方や企業の皆さまと新しい取り組みを行いたいと考えております。ご関心のある方は、城東支所までお気軽にお問い合わせください。

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