土壌に含まれる水分と傾斜を同時計測する「多機能土壌水分センサー」の改良に関する共同研究
公開日:2025年11月4日 最終更新日:2025年11月4日

大起理化工業株式会社と都産技研は、共同研究を経て2024年に製品化した「多機能土壌水分センサー DIK-G300」について、2024年度の共同研究でさらなる高機能化・高精度化を実現しました。共同研究の背景や取り組みについて、大起理化工業株式会社代表取締役 大石 正行 氏と、都産技研電子技術グループの佐野 宏靖 主任研究員に話を聞きました。
土壌の水分量と傾きを常時監視できる多機能センサー
「多機能土壌水分センサー DIK-G300」は、水分を多く含んだ土壌の含水率を高精度で計測できる製品です。本製品には0.01度の分解能を持つ傾斜センサーも内蔵されており、土壌の水分と傾きを同時に計測することができます。データロガー(データを一定間隔で自動的に記録する装置)と接続すれば、土壌を常時監視することで、土砂災害の前兆を早期に検知することが可能です。
本製品は、2021年度から2023年度に同社と都産技研の共同研究によって開発され、2024年に製品化されました。高含水率の土壌に含まれる水分量を高精度で測定できる土壌水分センサーは、それまで国内に例がなく、発売後はさまざまな反応が寄せられたといいます。
「土砂災害警報システムの一部として本製品が組み込まれたり、素材メーカーをはじめ土壌以外の分野からお声がけいただいたりなど、当初は想定していなかった範囲まで活用の幅が広がっています。製品化によって新たに寄せられた要望を踏まえ、2024年度の共同研究では次期製品の開発に取り組みました」(大石氏)
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寄せられた要望のひとつが「地層別の測定が簡単にできるようにならないか」というものでした。既存製品でも、複数のセンサーを各地層に設置すれば、地層別の測定は可能です。しかし、センサーをひとつ設置するたびに掘削作業を行わねばなりませんでした。
「1本の長い棒に複数のセンサーが搭載されているような形状であれば、1回の掘削作業で各地層の測定が可能になります。しかし、既存製品は先端に水分を測定する電極部があるため、そのままでは縦につなげることができません。要望を満たすには、電極部の形状を変える必要がありました」(大石氏)
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お客さまからの要望を受け、さらなる利便性向上を追求
共同研究では、都産技研が電子回路の設計や構成手法の開発を担当し、大起理化工業は含水率を導くソフトウェアや電極などのハードウェアを担当。さらに実際の土壌での評価は大学の研究機関で行い、企業・公設試・大学の三者で連携して開発を進めました。新たな電極部を検討するにあたり、都産技研では試作品製作に先駆けたシミュレーションを行いました。
「大石さまとのディスカッションを経て生まれたアイデアをもとに、物理モデルを使った数値計算を行いました。大石さまにも3Dモデルを作成いただき、詳細なシミュレーションを経たうえで、試作品による評価を行っています。最終的な形状に行き着くまで、1年ほど試行錯誤を重ねました」(佐野)
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こうして完成した後継機「DIK-G300 TypeJ2」は、円筒状の本体の周囲に電極部を設けています。複数の本体を折り曲げ可能なジョイントで直列に接続することにより、各地層の水分や傾斜をそれぞれ測定することが可能です。本体は3つまで接続可能で、2メートルほどの深さのデータを取得することができます。

「データを収集するクラウドシステムも併せて改修し、よりデータを利活用しやすい形を目指しました。あらかじめ設定した閾値(いきち)を超えると、危険を知らせる通知機能を設けており、スマートフォンへの通知や、警報ランプの点灯といった連携も可能です」(大石氏)
「傾斜の測定分解能も0.01度から0.001度に向上しています。前回のバージョンでは傾斜の測定結果に温度による影響が若干見られたため、都産技研で補正プログラムの実装と検証を実施し、温度変化による影響を抑制しました」(佐野)
共同研究で得られた知見をベースに、さらなる発展を
同社は、もともと農業向けの土壌測定器を中心に事業を展開しており、本製品も農業への活用が期待されています。EC(Electrical Conductivity、電気伝導度)の測定値からは塩分濃度が算出可能であり、土壌に含まれる肥料分を測定するほか、塩害対策にも活用できると大石氏は語ります。
「地球温暖化による海水面の上昇により、沿岸部の農耕地では土壌の塩分濃度が高まっている場所も見られます。地層ごとに水分と塩分の動態を把握することで、こうした社会課題の解決にも貢献できると考えています」(大石氏)

共同研究は今年度も継続しており、さらなる次期製品の開発に向けて研究が進められています。「高水分を含む素材の水分を測定できる」という特長を活かし、今後は土壌以外の用途にも販路を広げる予定です。また、海外への展開も視野に入れており、多摩テクノプラザでEMC試験を実施するなど、輸出規制への対応にも取り組んでいます。
「私たち中小企業の強みは、お客さまに寄り添った、きめ細かなものづくりができることにあります。共同研究で得られた知見をベースに、今後もさまざまな要望に応えた製品を生み出せればと思います。都産技研の皆さんには、引き続き技術面でご支援いただけますと幸いです」(大石氏)
「大石さまは新たなアイデアを次々と形にされ、そのフットワークの軽さにはいつも驚かされています。今後も技術支援のみならず、企業と大学の橋渡し役として、公設試の役割を発揮していければと思います」(佐野)
 

大起理化工業株式会社
代表取締役 大石 正行 氏
電子技術グループ
主任研究員 佐野 宏靖
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