顕微レーザーラマン分光測定機による各種材料の構造解析
公開日:2026年2月2日 最終更新日:2026年2月2日

ラマン分光測定機は、無機物や有機物などの各種材料の構造解析に用いられる装置です。特に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜やカーボンナノチューブ、グラフェンなどの無機炭素材料の詳細な構造解析に適しており、材料開発や品質管理などに活用できます。レーザー出力を調整することで、数μmオーダーの微小領域を非破壊で測定でき、特別な試料の準備なしで固体・液体の分析が可能です。本稿では、本部に新たに導入した顕微レーザーラマン分光測定機の概要と機能を紹介します。
※本装置は公益財団法人JKA補助事業による補助を受けて設備導入しました。
ラマン分光測定の概要
ラマン分光測定は、単一波長のレーザー光を材料表面に照射し、その表面で発生する散乱光を検出する手法です。材料から発せられる散乱光は、照射した光と同じ波長をもつ「レイリー散乱光」と、波長の異なる「ラマン散乱光」で構成されています。後者のラマン散乱光は、レーザーを照射した材料内部の化学構造に応じて波長が変わるため、この波長の変化量をラマンスペクトルとして観測することで材料の構造解析ができます。
代表的な測定事例として、ダイヤモンド、ポリエチレン、ポリスチレン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、から得られたラマンスペクトルを図1に示します。図からわかるように、材料の種類に依存して、異なる波数帯にラマンピークが発生するため、このピークの位置を確認することで、物質の特定が可能となります。
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次に、非晶質構造のDLC膜から得られたラマンスペクトルに対し、ピーク解析を行った事例を図2に示します。図のように、DLC膜のラマンスペクトルはベンゼン環の面内伸縮振動に由来したDisorderピーク(1,350 cm-1付近)と、sp2結合炭素の相対伸縮振動に由来したGraphiteピーク(1,550 cm-1付近)の二つの代表的なピークで構成されたバンド形状のスペクトルとなります。一般的に、ラマンスペクトルは複数のピークで構成されていることが多く、これらの各ピークの半値幅・位置・強度比 などを比較することで、材料の構造の違いなどを検証することができます。

高分解能での測定による詳細な構造解析
ラマンスペクトルから物質の情報を十分に読み解くためにはピーク解析が必須であり、スペクトル波形自体を高精度に測定することが重要です。今回導入したラマン分光測定機では、グレーティング (ラマン散乱光の分光を行うための回折格子に設けられた溝の数)の多い回折格子を導入しているため、高分解能での測定が可能となっており、ピーク位置や半値幅の微小な違いを高感度に検出することができます。
一例として、異なるグレーティングで測定したSi(シリコン)ウェハーのスペクトルを図3に示します。今回の測定では、3,000 l/mm、1,800 l/mm、600 l/mmの3種類のグレーティングを使用しました。図からわかるように、グレーティングの多い条件で分析を行うことで、半値幅の小さいシャープなスペクトルが得られており、高精度でのピーク解析が可能となっています。
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焦点追従機能を活用したマッピング分析
ラマン分光測定は、数μmオーダーのピンポイントでの定点測定だけでなく、ステージを走査(縦横方向に移動)させながら測定することでマッピング像を取得することも可能です。また、この装置では、図4に示すように、測定時のレーザーの集光状態の変化をリアルタイムで読み取ることで、自動で焦点を合わせながらマッピング測定を行えるシステムが組み込まれており、段差や表面凹凸の激しいサンプルであっても良好なマッピング像を取得することができます。
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一例として、焦点追従機能をオフにした場合とオンにした場合での、ダイヤモンド粒子から得られるスペクトル強度をマッピングした結果を図5に示します。図のように焦点追従機能がオフの場合は、表面凹凸により焦点の不一致が発生し、スペクトルの検出強度が低下してしまっている箇所(黒色や青色で表示されている部分)が多く見られます。一方でオンの場合は、自動焦点合わせにより、スペクトル強度の高い部分(赤色や黄色で表示されている部分)が増加していることがわかります。
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レーザー侵入を活用した深さ分析
ラマン分光測定では、材料内部のある程度の深さまでレーザーを侵入させることができます。この特性をいかし、レーザー焦点位置を材料内部方向へ意図的にずらすことで、材料表面から深さ方向へのスペクトル変化を観測することも可能です。
その一例として、Siウェハーの両端に重りを乗せて反りを発生させたSiウェハーに対して深さ分析を行い、深さ方向へのピーク位置の変化を可視化した結果を図6に示します。図のように、材料表面では反りにより引張応力が発生しており、この応力状態に依存してピーク位置が低波数側(図中の青色で表示されている部分)にシフトしている様子が見られます。一方で、材料内部では圧縮応力が発生しているため、表面側と比較してピーク位置が高波数側(図中で赤色で表示されている部分)へシフトしていることがわかります。このように、ラマン分光測定の深さ分析を活用することで、非破壊で材料表層の応力分布状態を測定することも可能です。

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