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300℃まで安定な高温対応型誘電体の開発

公開日:2026年9月1日 最終更新日:2026年9月1日

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都産技研は、300℃まで安定な高温対応型誘電体を開発に成功しました。車載用途をはじめ、高温環境で動作する電子機器の信頼性向上や高性能化に貢献し、特にセラミックコンデンサ材料として活用できます。コンデンサ材料として利用した場合、室温から300 ℃までの温度範囲において、静電容量の変化率を±15 %以内に抑えることができます。また、高温対応型誘電体の合成には従来の製造プロセスと親和性が高い手法を採用しており、実用的な材料合成手法としての展開も見込まれます。

技術背景

車載用途、発電設備、航空・宇宙分野における電力変換システムなど、高温環境下で信頼性の高い動作が求められる電子部品には、高温安定性に優れる誘電体が必要です(図1)。セラミックコンデンサに広く用いられるBaTiO3系誘電体は、優れた誘電特性を示すことから、幅広い分野で利用されています。しかし、120 ℃を超える温度域では比誘電率が著しく低下するため、高温環境における誘電特性の安定性向上が課題となっています。そこで本研究では、300 ℃まで安定した誘電特性を示す高温対応型誘電体を開発しました。これにより、高温環境で動作する電子機器の信頼性向上や高性能化が期待されます。

図1 電子部品の用途別使用温度域

誘電体

物質は、電気抵抗率の大きさ、またはキャリア濃度 (材料中に存在する自由電子と正孔の数を単位体積当たりで表したもの) により、金属・半導体・絶縁体に分類されます(表1)。電極で絶縁体を挟み電場を印加すると、電流はほとんど流れませんが、正負の電荷が互いに反対方向にわずかに変位し、電気的な偏りが生じます。この現象を誘電分極と呼び、分極を生じる物質を誘電体と呼びます。セラミックスの誘電体層と電極を何層も交互に積層したものが、積層セラミックコンデンサです(図2)。また、誘電分極の度合いの指標となる物理量を比誘電率と呼び、比誘電率が高いほど、より多くの電気エネルギーを蓄えることができます。

 電気抵抗率 ρ
(Ω cm) (室温)

キャリア濃度

(cm-3) (室温)

金属

10-6

>1022

半導体

10-2109

10131017

誘電体 (絶縁体)

1014

<1013

表1 各種材料の電気抵抗率とキャリア濃度

 

図2 誘電分極の模式図(左)と積層セラミックコンデンサ(右)

リン酸ニオブ系誘電体

リン酸ニオブ系誘電体 (PNb9O25) は、1960年代にその結晶構造に関する研究が行われた後、2000年代に至るまで物性研究はほとんど行われませんでした[参考文献1,2]。近年では、放電プラズマ焼結法 (SPS法) により合成されたPNb9O25が高い比誘電率と誘電特性の高温安定性を示すことから、誘電体として興味深い特性を有することが報告されています[参考文献3]。一方、一般的に用いられる固相法でPNb9O25を合成すると、異常粒成長や酸素欠損が生成され、誘電損失の増大や誘電特性の高温安定性の低下が課題となっていました。

ガラスと酸化物の界面反応を利用した合成法

ガラスと酸化物の界面反応を利用した液相焼結により、PNb9O25を合成しました(図3)。本手法の特徴は、ガラスから目的の結晶構成成分を供給するとともに、目的結晶の生成に直接寄与しない成分を非晶質として有効活用する点にあります。具体的には、前駆体ガラスであるSiO2-P2O5ガラスとNb2O5の界面において、ガラス中のP成分がNb2O5側へ優先的に拡散して反応し、PNb9O25が生成します。一方、Si成分はあまり拡散せず、SiO2リッチな非晶質として残存します。SiO2リッチな非晶質は、異常粒成長や酸素欠損の生成を抑制し、誘電特性の高温安定性及び絶縁性の向上に寄与します。結晶粒の大きさについては、図4(a)に示すように、固相法で合成した試料では20 µmを超える結晶粒が観察されたのに対し、本手法で合成した試料では結晶粒径が10 µm以下に抑制されています。また、XPS測定において、固相法で合成した試料では4価と5価のNbが混在していたのに対し、本手法で合成した試料ではNbが主に5価の状態で存在することが確認されました(図4(b))。また、本手法は、従来の固相法と比較して、簡便なプロセスで目的の材料を合成可能であることも特徴のひとつです。

図3 従来法と本研究におけるリン酸ニオブ系誘電体の合成プロセスの模式図
図4 本研究及び固相法で合成したリン酸ニオブ系誘電体の比較
(a) 微細構造の比較 (b) Nb 3dスペクトルの比較 (挿入写真はサンプル外観写真)

高温対応型誘電体の誘電特性

比誘電率は温度変化によって変化し、これに伴い静電容量も変動します。以下の式に示す静電容量の変化率は、温度変化に対する静電容量の安定性を示す指標であり、一般的に温度特性と呼ばれます。

ΔC=(CT -CR.T.)/CR.T.
(ΔC: 静電容量の変化率、CR.T.: 室温における静電容量、CT: 温度Tにおける静電容量)

米国電子工業会(Electronic Industries Alliance)が制定し、セラミックコンデンサの規格として世界的に広く用いられているEIA規格では、3文字のコードにより、温度範囲とその範囲内で許容される静電容量の変化率が規定されています(表2)。

EIA呼称

下限温度 (℃)

上限温度 (℃)

静電容量の変化率 (%)

X7R

-55

+125

±15

X8R

-55

+150

±15

X9R

-55

+200

±15

X7S

-55

+125

±22

Y5V

-30

+85

-82/+22

表2 セラミックコンデンサのEIA規格 (Class 2)
※EIA規格 (Class 2)から一部抜粋

静電容量の変化率が小さいほど、温度変化に対して安定した特性を示すため、高温対応型誘電体として好ましいとされています。しかし、高い比誘電率を維持しながら、温度変化に伴う静電容量の変化を抑えることは容易ではありません。
本研究では、PNb9O25とSiO2リッチな非晶質を複合化することにより、室温から300 ℃までの温度範囲において、静電容量の変化率を±15 %以内に抑えることに成功しました (図5)。

図5 各種誘電体の温度特性の比較[参考文献4~6] 
(挿入図は、ΔC=±40 %の領域の拡大図)

高温対応型誘電体の電気特性

一般に、誘電体の電気伝導度は温度上昇に伴い増加し、絶縁性は低下する傾向があります。したがって、高温でも高い絶縁性を維持することは、高温対応型誘電体に求められる重要な特性の一つです。
本研究では、交流インピーダンス法により材料の抵抗成分を解析し、温度変化に伴う電気伝導度の変化を評価しました。液相焼結法で合成した高温対応型誘電体は、他の誘電体と比較して低い電気伝導度を示し、優れた絶縁性を有することが明らかになりました(図6)。以上の結果から、本研究で開発した高温対応型誘電体は、過酷な温度環境で動作するコンデンサの信頼性向上と高性能化に貢献することが期待されます。
 

図6 各種誘電体の電気伝導度の比較[参考文献3, 7~10]

本材料に関するお問い合わせについて

本研究で開発した高温対応型誘電体は、優れた温度特性及び絶縁性を示すだけでなく、既存の製造設備や工程との親和性の高い合成法を採用しています。なお、本技術については特許出願済みです(特許出願番号:特願2025-183682)。今後は、都内中小企業をはじめとする企業の技術者の皆さまとの共同開発を通じて、実用化に向けた検討を進めていきたいと考えています。本材料に関するご相談はもちろん、その他の誘電材料や材料開発に関する技術相談についても対応が可能です。ご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。 

参考文献

  1.  J. L. Waring and R. S. Roth, Acta Crystallogr. 17 (1964) 455-456.
  2.  R. S. Roth, A. D. Wadsley, and S. Andersson, Acta Crystallogr. 18 (1965) 643-647. 
  3.  J. Fu, J. Am. Ceram. Soc. 105 (2022) 3740-3745. 
  4.  M-J. Pan and C. A. Randall, IEEE Electr. Insul. Mag. 26 (2010) 44-50.
  5.  H. Birol , D. Damjanovic, and N. Setter, J. Am. Ceram. Soc. 88 (2005) 1754-1759. 
  6.  J. P. Tidey, U. Dey, A. M. Sanchez, et al., Commun. Mater. 5 (2024) 71.
  7.  H. M. Kotb, M. M. Ahmad, A. Alshoaibi, and K. Yamada, Materials 13 (2020) 5822.
  8.  R. Dittmer, E.-M. Anton, W. Jo, H. Simons, et al, J. Am. Ceram. Soc. 95 (2012) 3519-3524.
  9. L. Ben, L. Li, J. H. Harding, et al., Open Ceramics 9 (2022) 100250.
  10.  S. Aman, K. Kubo. H. Akiba, and D. Inagawa, Jpn. J. Appl. Phys. 55 (2016) 10TB08. 
     

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