木材や食品がプラスチックの代わりになる。100%天然素材から生まれたストロー
公開日:2021年7月1日 最終更新日:2024年11月8日

世界的な問題となっている、海洋プラスチックごみによる海洋汚染。日本でもレジ袋が有料化されるなど、脱プラスチックの関心が高まっています。都産技研では使い捨てプラスチックストローに着目し、100%天然素材からなるストローの基盤研究を行いました。
研究の経緯や今後の展望について、製品化技術グループの酒井 日出子 主任研究員に話を聞きました。
今のままでは、海洋プラスチックの量が魚の量を超える
世界で生産されたプラスチックのうち、リサイクルされているものは、たった9%しかないと言われています。
1950年以降、世界で生産されたプラスチックは83億トンを超え、そのうち63億トンがごみとして廃棄されています。現状のままでは、2050年までに120億トン以上のプラスチックが埋め立て、もしくは自然投棄され、海洋中のプラスチック量は魚の量を超えるという試算もあります。
世界的に脱プラスチックの機運が高まるなか、ファーストフード店を中心に、プラスチックストローを廃止する動きが続いています。そこで都産技研では、100%天然素材による使い捨てストローを開発すべく、2019年より基盤研究をスタートしました。
まず着手したのは、既存の使い捨てストローについての基礎調査です。職員に協力してもらい、飲食店やホテル、コンビニエンスストアなどの使い捨てストローを集め、約350本69種類を分類しました。現在は紙製のストローも普及してきましたが、2019年5月時点ではポリプロピレン製が90%以上を占めていたのです。
この結果を踏まえ、天然素材からストローの素材を検討しました。ストロー基材の候補は、紙、単板、木粉、絹糸、綿糸、寒天、こんにゃくなど。ストロー形状を保つための糊剤(バインダー)には、グルコマンナン、ライスワックス、米、タピオカなど、食用品から15種類を選びました。
また、撥水・耐水手法としては、蜜蝋、しそ、シュラックなど10種類の候補を用意し、基材とバインダーとの組み合わせを探りました。その結果、10種類の組み合わせについて試作を製作することとしました。

プラスチックでは起きない「気泡の大量発生」問題
紙ストローについては、東京農工大学との共同研究を行っています。紙ストローは既に市販品が多く流通していますが、一般的な紙には添加剤や合成接着剤が含まれており、100%天然素材とは言えないのです。農工大には、天然素材のみからなる紙の開発について、協力を仰ぎました。
また、紙と単板(木材)のストローに共通する課題として、気泡の問題があります。両材料とも、炭酸飲料に浸すと気泡があふれ出てしまうのです(ご興味ある方は、炭酸飲料が入ったペットボトルに割り箸をそっと入れてみてください)。
プラスチック製ストローとは違い、紙や木には表面に細かな凹凸があります。この凹凸によって、液体と接触する表面積が大幅に増え、気泡が大量に発生するのです。

木製ストローをそのまま炭酸飲料に用いると、気泡が発生してしまう。
この問題を解決するために、紙ストローは農工大と、木製ストローは室蘭工業大学との共同研究において、検討を進めました。木製ストローにおいては、しそ由来ポリマーによるコーティングや、カルナバ蝋の含浸を試し、防水性の向上も図りました。
繊維ストローでは、衣類やリボン、靴紐などにも用いられる編組を用いました。100%オーガニックコットンで筒状に組まれた繊維をバインダーで固定し、ストロー状にしています。木粉ストローでは、木粉とグルコマンナンを撹拌した原料を製麺機で押し出し、ストローの形状を作りました。ただ、乾燥に丸2日かかってしまうため、生産性については課題が残りました。

実用化に向け、製造工程やコスト削減も検討
こうして10種類のストローを試作し、完成までの所要時間、安全性、見た目などの観点から評価を行いました。
最も評価が高かったのは「スギ突板+グルコマンナン+貝殻焼成カルシウム」です。薄くスライスしたスギ突板をストロー状に巻き、こんにゃく芋を原料とするグルコマンナンをバインダーに使いました。さらに貝殻焼成カルシウム(水酸化カルシウム)でアルカリ化することで、長時間水に浸してもほどけないよう加工しています。これに気泡抑制の処理を施した「スギ突板+グルコマンナン+貝殻焼成カルシウム+しそ由来ポリマー」も、生産性に課題は残るものの、高い評価となりました。
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天然素材ストローの実用化には、コストや製造工程の検討が欠かせません。そこで、最も高評価だった「スギ突板+グルコマンナン+貝殻焼成カルシウム」のストローについて、株式会社木具定商店と製品化の共同研究を進めました。
共同研究では材料費のコストダウンや、塗布作業の機械化などを実現し、2021年7月に「100%天然素材ストロー」として受注販売が決定しています。また、国際サステナブルグッズEXPO(外部リンク)に出展しています。
「布製の食器」など、ストロー以外の可能性も
本研究にあたっては、都産技研内の職員と協力しながら開発を進めました。素材や物性、環境など、都産技研が持つ多くの技術シーズがあってこそ実現できた研究です。
今回試作した天然素材は、ストロー以外にも活用できる可能性を秘めています。防水性の高さや形状維持の観点から食器などに、耐熱温度の高さは照明器具などにも応用が可能です。すべて天然素材からなりますので、子ども向けのオモチャなどにも安心してお使いいただけると思います。
100%天然素材の材料から、「布でできた食器やカトラリー」「紙でできた照明器具」など、環境に優しいユニークな製品が生まれるのではと期待しています。ご興味をお持ちの方は、ぜひ都産技研までお声がけください。

事業化支援本部 技術開発支援部
製品化支援グループ
主任研究員
酒井 日出子(さかい ひでこ)
関連情報
共同研究先
- 国立大学法人 東京農工大学 環境資源科学(外部リンク)
小瀬 亮太 准教授 - 国立大学法人 室蘭工業大学 システム理化学科 化学生物システムコース(外部リンク)
馬渡 康輝 准教授(外部リンク)・高瀬 舞 准教授 - 株式会社木具定商店(外部リンク)
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