放射線とは? 放射線の基本や単位の種類、測定の方法など初めての方にもわかりやすく紹介!(セミナー開催案内あり)
公開日:2025年6月2日 最終更新日:2025年6月2日

こちらの記事では、オンデマンドセミナー「放射線の基礎」の要約記事として、放射線とは何か、どういった放射線がどのように利用・管理をされているかについてわかりやすく解説します。
製品の品質管理担当者の方などに好適な内容となっています。
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はじめに
放射線にもさまざまな定義がありますが、法律※1の観点では、「電離放射線」のことを指します。具体的には、「電離する能力」を持った「電磁波または粒子線」のことで、そのエネルギーや種類によって物質にさまざまな作用を及ぼして、医療や工業の分野で欠かすことのできない役割を果たしています。
健康診断などでおなじみのレントゲン撮影やCT検査、空港の手荷物検査、医療器具の滅菌や、ゴムタイヤの強化等にも利用されています。
※1:「放射性同位元素等の規制に関する法律」
一方で、放射線は使い方や管理を誤ると、人体や健康に影響を及ぼします。放射線は目に見えないこともあって、漠然と不安に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
どの種類の放射線が、どれくらいの量で、どのような影響を及ぼすのか、また、目に見えない放射線をどう管理するのかといった知識を学ぶことで、過度に恐れることなく、かといって無関心にもならず、正しく恐れる姿勢を持つことができます。そして、私たちの身の回りの放射線や、さまざまな場面で利用されている放射線と適切に付き合っていけるのです。
放射線の基礎
電離とは、原子や分子などが電子を放出、または取り入れてイオンになることを言います。このうち、放射線による電離は、粒子線によって電子が押し出されたり、電磁波との衝突で電子が跳ね飛ばされたりといった電子の放出によるイオン化を指します。この電離(イオン化)によって、放射線が物質にエネルギーを与えることが、放射線の物質への主な※2作用です。
※2:そのほかに、物質を励起させるという作用もあります。
- 放射線は、物質を電離させて影響を与える。

ここで注目していただきたいのが、放射線は種類によって、電離を起こす範囲や頻度が大きく違うということです。
放射線の種類として、粒子線と電磁波に分けられると述べましたが、粒子線には原子核、電子、陽子、中性子などがあり、電磁波にはエックス線、ガンマ線などがあります。これらの放射線が物質に影響を与える度合いには、その質量の大きさと電気的な性質が深く関係しています。
一般的には、質量が大きく、電気的な性質が強い放射線ほど、物質に与える影響の範囲は広くなり、頻繁に物質に影響を与えるようになります。
- 質量が大きく電荷が大きい放射線ほど、広範囲に、頻繁に影響を与える。
- 質量が小さく電荷が小さい放射線ほど、物質を透過する力をもつ。
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これらの性質はさまざまな分野で活用されています。例えば、広範囲に頻繁に影響を与える性質は、がん細胞の集まりにだけダメージを与える放射線治療に利用されています。また、ゴムタイヤや樹脂製品の表面を強化し、耐熱性を高めるためにも利用されています。一方、物質を透過する力は、患者の体を切開せずに診断したり、製品・部品の内部を壊さずに検査したりする技術に応用されています。
放射線の測定
放射線を安全に利用し、管理するためには測定が欠かせません。このとき、どのような値を測っているのか、また、それぞれに適した測定器やその原理などを知っておくことが重要です。
放射線の線量と単位
線量のお話をする前に、よく混同される「放射能」と「放射線量」の違いについて説明します。簡単に言うと、放射性物質が放射線を出す能力の程度を「放射能」といい、単位はベクレル(Bq)です。
一方、「放射線量」は放射線の量のことで、放射線が物質に影響を与える程度で表現します。放射線量には、物質に与えたエネルギー量を表す吸収線量:単位グレイ(Gy)や、人体への影響度合いを表す実効線量、等価線量:単位シーベルト(Sv)などがあります。
- 放射能は、どれだけ放射線が発生するかを表す。
- 放射線量は、物質や人体にどれだけ影響を与えるかで表す。
表1 放射能と放射線量,定義と単位

放射線の測り方(気体、固体)
放射線量を測る方法として、気体または固体を使った線量計を紹介します。どちらも放射線が気体や固体をどれだけ電離させたかを測定します。
気体を用いる線量計で代表的なのは電離箱というもので、空気が電離されてできる電子を測定します。空気は固体に比べて密度がとても小さく、電子の数をカウントする頻度も小さくなるため、感度が悪い代わりに大きな線量にも対応できます。
固体を用いた線量計であるシンチレーションカウンターや半導体検出器ではその逆で、感度が良い代わりに対応できる線量レベルは小さくなります。
- 電離箱は、大きな線量を測るのに有効
- シンチレーションカウンターや半導体検出器は、小さな線量を測るのに有効
測定する放射線の量以外にも、放射線の種類やエネルギーによっても線量計を使い分けています。

人体影響
放射線量は、測定した人と場所ごとに、法律で定められた被ばく線量の限度を超えないように管理する必要がありますが、こうした規制値はどのように決められているのでしょう。
まず、放射線の人体への影響には確定的影響と確率的影響の2種類があります。
確定的影響とは、放射線によって人体組織の細胞や、特にまだ役割が決まっていない未分化な細胞が死んでしまうことで、組織の機能不全が起こる影響のことです。この影響は、被ばくする線量が多いほど重篤になります。
一方、確率的影響とは、放射線によって傷ついたDNAが誤った修復を行い、がん細胞へ変異してしまう影響のことです。こちらは、被ばくする線量が多いほどがん発生率が高くなります。
- 影響の種類として、確定的影響、確率的影響の二つがある
細胞死が確定的影響を起こし、DNAの誤った修復が確率的影響を起こす
図4 放射線の人体への影響の種類
法律では、作業者の被ばく限度として100 mSv/5年、かつ50 mSv/年と定められています。これは、確率的影響、つまりがんリスクが被ばく線量に比例して増えることが認められる下限値が100 mSvであることを基準に設定されています。また、1年を約50週間として考え、1 mSv/週を超えるおそれがある区域を管理区域として管理する必要があります。この管理区域の境界での線量限度は1.3 mSv/3ヵ月(13週間)と決められています。
これらの限度を超えないように、放射線量を測定・管理することが重要です。
- 放射線作業者の線量限度は、100 mSv/5年、かつ50 mSv/年
- 管理区域境界の線量限度は、1.3 mSv/3ヵ月

最後に、身の回りの放射線量について紹介します。私たちは日常的に自然放射線を受けており、日本人の平均年間被ばく量は約2.1 mSvとされています。これは、宇宙線や大地からの放射線などによるものです。特に、高高度を飛ぶ国際線の搭乗員は宇宙線の影響が増えるので、例えば、東京-ニューヨーク往復で約0.1 mSvの追加被ばくがあるとされています。
他にも、医療などで使われる人工的な放射線(人工放射線)としては、胸部レントゲン1撮影で0.02~0.06 mSv、CT検査で5~30 mSvの被ばくがあります。これらの被ばくは、法律で定められた被ばく限度を考慮して管理されています。
- 身の回りの放射線は法律で決められた線量限度よりずっと小さい

セミナー情報
放射線の基礎について簡単に紹介してきましたが、さらに詳しい内容を知りたいと思っていただけましたら、12月に開催予定のオンデマンドセミナー「放射線の基礎」にぜひご参加ください。
また、数値計算を使った設計を行いたい方を対象に、9月に講習会「PHITSを利用したX線防護具の遮へいシミュレーション(仮題)」も予定しています。
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