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服の不自由を解消する「アームスリングケープ」を臨床との連携で開発。患者のQOL向上を目指す

印刷用ページを表示する 更新日:2023年5月1日更新

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都産技研と医療法人三省会堀江病院(以下、「堀江病院」)は、株式会社ケアウィルが開発した『アームスリングケープ』というケア衣料について、身体・感覚に与える影響の定量的な評価に取り組みました。基礎データを得ると共に、QOL向上のための次なるデザインを模索する上で、製品の可能性を広げる取り組みとなりました。本研究について、株式会社ケアウィル 代表取締役の笈沼 清紀 氏、堀江病院 リハビリテーション科理学療法士の久保 一樹 氏、墨田支所の山田 巧 主任に話を聞きました。

(外部リンク)

服の不自由を解決するケア衣料の開発

株式会社ケアウィルは、“日常的に使えるケア衣料の開発”を手掛けています。当初は入院介護患者向けのオーダーメイド衣服を提供していましたが、コロナ禍の影響で個別対応が難しくなり、方向転換しました。

「傷病や障害度数、病院や施設の中など、症状や場所を問わず、おしゃれで幅広く着られるような、患者さんの服の不自由を最大公約的に解決する製品をつくろうと思いました。脳卒中による片麻痺や骨折・脱臼患者向けに、一人でも片手で着脱が可能で、腕を保持する腕帯が目立たない、三角巾とケープが一体化したアームスリングケープの開発をスタートさせました」(笈沼氏)

写真:アームスリングケープ

アームスリングケープ​


その後、都内中小企業の経営支援を行う東京都中小企業振興公社からの紹介により、都産技研が開発の技術支援を行うことになりました。墨田支所では、「人間にとっての使いやすさ」、「快適・安全・健康」に配慮した製品開発、高付加価値なものづくりに取り組んでいます。快適感や生地の通気性などの人の着心地に関する素材評価を担当していた山田主任が、衣服の温熱特性の評価などの技術支援で笈沼氏から相談を受けたことをきっかけに、研究開発に発展しました。一方、理学療法士の久保氏も、以前より患者用の衣服に関して課題を感じていました。

「三角巾に関して、“一人で巻けない”、“防寒性が弱い”、“首の結び目が痛い”などといった患者の訴えが多く、その解決策を模索していました。今回の共同研究の成果によって、患者の不自由を解決し生活が豊かになればと思い、リハビリテーション専門職の観点からご協力させていただくことになりました」(久保氏)

​製品開発者・理学療法士・被服学研究員の連携により、製品特性の定量的な評価を実現

​2021年11月の販売開始以降、ケアウィルの製品を購入したお客さまからは、”温かく感じる”との意見が多数寄せられていました。本研究は、なぜケアウィルのアームスリングケープを温かく感じるのか、その根拠を明確にすることを目的に始まりました。臨床(医療の現場)における被験者実験による評価、サーマルマネキンによる温熱特性評価により、患者のQOL向上を目指すとともに、次期モデルの開発のための最適なデザインを探る取り組みです。

アームスリングケープ写真

アームスリングケープ

三角巾写真

三角巾

三角巾+カーディガン写真

三角巾+カーディガン

アームスリングケープの温かさは防寒アイテムと同等

臨床研究では、“アームスリングケープ”、“三角巾”、“三角巾+カーディガン”という3種類の着用条件で、被験者実験を実施しました。久保氏が筋硬度の測定と官能評価を担当し、山田主任は皮膚温計測、ケアウィルでは着用後のヒアリングを行った後、具体的なフィードバックとデータを収集していきました。検証の結果、アームスリングケープのほうが温かいという感覚(心理反応)の統計的な差は認められたものの、肩の温度や筋硬度など(生理反応)に有意な差は認められませんでした。その後、“なぜ温かさを感じるか”を定量的に把握するために、都産技研のサーマルマネキンによる温熱特性評価を行いました。

サーマルマネキンは人と同じように発熱するマネキンです。部位(胸、上腕、前腕、手部)ごとにヒーターがあり、部位ごとの保温性がわかるため、具体的にどの部分の保温性が高いのか、定量的に示すことができます。最初の3種類の着用条件に、さらに“フリースブランケット”や“ダウン”を加えた5種類の着用条件で、身体のどの部分が温かいのかを定量的に示すデータを取得しました。その結果、全体的にはアームスリングケープが防寒アイテムと同等の温かさを持つことが示されました。身体の各部位の保温性の結果では、末梢までケープで包んで温まっていることがわかり、なぜ人はアームスリングケープを温かいと感じるのか、その要因が明らかになりました。

「動作安定性の検証では、墨田支所の衣服圧測定装置を活用しました。衣服圧測定装置は、靴下やストッキングの足首周りやふくらはぎ周りの圧力を測る装置ですが、今回はその装置を応用して、人体側に係る圧力を測定しました。結果として、結果として、首の部分への圧力が最も高く、三角巾の結び目の痛さを再現するデータが得られました」(山田)​​

写真:サーマルマネキン

サーマルマネキン「Sumio」

 

広がる次作の可能性。医療・介護業界のさらなる発展に寄与

「被験者実験と試験機による評価のおかげで、製品の特性としてお伝えしている部分を科学的に立証できました。さらに、改良版の製品開発をしていくうえでのアイディア、改善のための具体的なポイントを検討でき、実りのある取り組みになったと思います。今後は、弛緩性麻痺患者や回復期に使われる現製品の次の製品として、傷病して間もない急性期や整形外科疾患の患者のための、ホールドを強くした製品の開発を考えています」(笈沼氏)

本研究の成果はすでに、久保氏により2022年11月の日本リハビリテーション医学会秋季学術集会で発表され、今後も各学会・協会での発表を予定しています。

「これを機にアカデミックな学会発表でも、アームスリングケープの認知が高まってほしいですね。アームスリングケープの技術を広くPRすることで、患者のQOL向上のための製品開発や研究が、被服分野でも深まっていけばいいなと思います」(山田)


 

(外部リンク)

プロフィール集合写真

(左から) 

地域技術支援部 墨田支所 主任 山田 巧

株式会社ケアウィル 笈沼 清紀(おいぬま きよのり)氏

医療法人三省会堀江病院・リハビリテーション科 久保 一樹(くぼ かずき)氏

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