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IoT活用により、屋外広告物の劣化状態を常時監視するソリューション

印刷用ページを表示する 更新日:2022年4月15日更新

トップイメージ

朝日エティック株式会社と都産技研は、2019年度公募型共同研究として、IoTを用いた屋外広告物メンテナンスソリューションの開発に取り組みました。
開発は2年間の共同研究で進められ、2022年2月にはIoTによる屋外広告物安全管理サービス「ロゴ(サイニット)」がサービスを開始しました。共同研究の内容や、事業化に至るまでの経緯について、朝日エティック株式会社の島本裕已氏、服部聡氏と、IoT技術グループの東内章プロジェクト事業技術員に話を聞きました。

(外部リンク)

「事後保全」と「予知保全」で屋外広告物の安全に貢献する

ファミリーレストランやガソリンスタンドなど、店舗にはさまざまな看板が立てられています。これらの屋外広告物は、長期間風雨にさらされることで劣化や破損が起き、定期的なメンテナンスを必要とします。しかし、メンテナンスには高所作業を必要とすることから、コストなどを理由に適切な処置が後回しにされ、安全性が損なわれてしまうという問題がありました。

この問題を解決するため、朝日エティック株式会社はIoTを用いた屋外広告物メンテナンスソリューションの開発に取り組みました。

「屋外広告物の保全には、定期的な点検やメンテナンスによる“予防保全”と、災害などで看板が倒壊した際に至急対応する“事後保全”、並びに構造劣化等の状態を把握し事前に手を打つ“予知保全”があります。この速やかな事後保全とタイムリーな予知保全を進めるために、センサーボックスによる常時監視サービスを検討しました」(島本氏)

各種センサーを格納したセンサーボックスを屋外広告物に設置すれば、看板の傾きや振動、内部の錆や照明の明るさが検知可能です。計測したデータは、無線通信を介してクラウドに集約すれば、遠隔で劣化の進行を把握できると考えました。

「停電時も監視が可能なように、センサーボックスは電池駆動としました。しかし、屋外広告物には10 mほどの高さのものもあり、電池交換のために高所作業を行えば費用がかさみます。そこで『10年間電池交換なし』を目標とし、IoT化の支援をいただきたく、都産技研の公募型共同研究に申し込みました」(島本氏)


センサーボックスの画像

屋外広告物に設置するセンサーボックス。
破損や劣化、傾斜、照明の不点灯、錆や色あせ、意匠面の回転といった状態を監視する。
屋外広告物の倒壊(10度以上の傾斜)を検知した場合は、関係者に警告メールを即時送信する機能も有する。

 

厳しい前提条件から生まれた「斬新な測定方法」

低消費電力化と高機能化、さらに低コストを実現させるには、さまざまな障壁がありました。そのひとつがデータの送信です。無線通信にはLPWA通信注1を採用しましたが、省電力化などの理由により、送信頻度は1日2回程度、1回に送れるデータ量は12バイトしかありませんでした。

「鉄骨の錆を検出する機能があるのですが、もちろんカメラも画像データも使えません。そこで、安価なRGBセンサーを採用し、当社が持つ錆のデータと合わせ、色合いの推移から錆の進行を判定するようにしました」(島本氏)

また、看板の色あせを検出する機能では、四季の移り変わりや日々の天候の違いを考慮して色あせを判定しているといいます。


システムの概要図

「仕様の前提条件のもと、検証を繰り返し、少しずつ設計を固めていきました。結果、これまでにない斬新な測定方法ばかりになりましたね。都産技研の東内さんには、プロジェクトの進行もフォローしていただき、大変助かりました」(島本氏)

「朝日エティックさまのプロジェクトには、IoTの技術要素が全て含まれていました。都産技研が持つIoTのノウハウを提供するだけでなく、評価試験やプロジェクト管理なども関わらせていただき、お互いの得意とするものを結集したプロジェクトになったと感じています」(東内)


注1 LPWA(Low Power Wide Area):低消費電力で長距離のデータ通信を可能とする無線通信方式。IoT分野の通信に広く利用されている

 

実際に看板を設置し、倒壊までの推移を見守る

試作品の検証では、実際の屋外広告物を用いた大規模な試験も行いました。自社工場内に形状の異なる10 mの看板を3本設置し、現場に近い環境で模擬試験を行ったのです。また、看板が倒壊に至るまでの状況を分析するため、実際に看板を倒壊させる試験も行いました。

「風速20 mほどの風で倒れるような低強度の看板(高さ約4 m)を2本設置し、倒れるまでの振動や傾きを測定しました。長いもので、倒れるまで半年ほどかかりましたね」(服部氏)

自社工場での試験と並行して、実証実験も行われました。朝日エティックは国内ガソリンスタンドにある大型看板の約半数を手がけており、各社の協力を得て、全国約30か所のガソリンスタンドに約300台のセンサーボックスを設置しました。

「やはり現地に設置してみなくてはわからないことが多く、非常に有益な実証実験となりました。九州・沖縄地方では、台風による強風が看板を激しく打ち付け、その衝撃が想定以上であることがわかりました。また、特定の環境下でのみ通信障害が発生するセンサーがあり、その問題切り分けには都産技研のEMC試験も活用いたしました」(島本氏)


監視・検知項目

 

看板以外の屋外構造物にも応用が可能

2年間の共同研究を経てセンサーボックスが完成し、2022年2月にIoTによる屋外広告物安全管理サービス「ロゴ(サイニット)」はスタートしました。

「ET&IoT展などの展示会では、都産技研ブースに出展し、来場者の皆さまに興味を持っていただきました。現在は見込顧客の方々をはじめ、販促活動に注力しています。今後はさらなる精度向上を図るほか、看板以外の屋外構造物にもこのしくみを応用すべく、検討を始めています」(島本氏)

「朝日エティックさまは全社一丸となってこのプロジェクトを推進しており、まさに“ワンチーム”で取り組まれていました。共同研究という枠組みは終了しましたが、引き続き事業化支援などでお声がけをいただけたらと思います」(東内)


「難易度の高いプロジェクトでしたが、若手を中心にメンバーには常に活気があり、目の前の難題を面白がる様子さえ見られました。今回の共同研究は会社にとっても大きな財産となり、良い文化醸成ができたと感じています」(島本氏)

 

(外部リンク)

 開発本部情報システム技術部
 IoT技術グループ プロジェクト事業技術員
 東内 章(ひがしうち あきら)

共同研究先

島本氏の写真

朝日エティック株式会社
技術開発センター担当部長

島本 裕已(しまもと ひろみ)氏

服部氏の写真

朝日エティック株式会社
技術開発センター課長

服部 聡(はっとり さとし)氏

 

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