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最適なねじ締め付けを行う技術の開発-ねじと被締結体の噛み合い部のひずみ伝播挙動の可視化-

印刷用ページを表示する 更新日:2021年5月15日更新

ねじ締め付けのイメージ画像

私たちの身の回りでは、多くの場所で「ねじ」が使われています。ねじは、モノとモノを「固定」するほか、ペットボトルのキャップのような「密閉」、配管の「接続」など、さまざまな用途で使用されています。ねじの緩みは、機械・製品の破損を引き起こす原因となります。したがって、ねじが緩まない最適な締め付けを行う技術の開発は、重要な技術課題の一つです。都産技研では、最適なねじ締め付け評価のため、ねじ締め付け時に生じるひずみの伝播挙動の可視化を試みました。

城東支所 主任研究員 櫻庭 健一郎

(外部リンク)

ねじ締め付けの品質向上と緩み防止技術の開発のために

ねじ・ボルトの締結不良や緩みを原因とする事故は、めずらしいことではありません。ねじ・ボルト締結が安全に行われるために、ねじ締め付け技術の向上は重要な技術課題となっています。

ねじの締め付け特性は、使用状況により大きく変化します。そのため、ねじの強度設計は、実際の使用環境を十分に考慮し、それぞれの状況に合わせて行うことが必要です。これまで、ナットを用いたボルトナット締結の品質向上のために、締め付けトルク注1、締め付け軸力注2、ねじ面摩擦注3、座面摩擦注4を評価する方法が検討されてきました。

これらの評価手法により、さまざまな締め付け条件でのボルト締め付け特性に関する研究結果が報告されています。一方、ナットを組まないねじの締結においては、締め付け軸力や被締結体内部のひずみ分布の測定が困難なため、締め付け特性を直接評価した事例はあまり見られません。

したがって、ナットを組まないねじの締め付けについても、設計のためのデータ蓄積が必要です。

本研究では、図1に例示したようなナットを組まないねじの締め付けにおいて、「ねじ」と「被締結体」の噛み合い部のひずみ伝播挙動を可視化することで、被締結体内部でひずみが伝わるメカニズムの解明を試みました。この目に見えない現象を見る技術の開発によって、ねじの締め付けをより明確に検証することが可能となります。

ナットを組まないねじ締結例の図

図1 ナットを組まないねじ締結例

 

本研究は、ねじ締め付けの品質向上、新しいねじの緩み防止技術、より適切なねじの締め付けが可能となる工具の開発の基礎になると考えます。

注1)締め付けトルク:ねじを締め付ける際、ねじ頭部またはナットに作用させる回転力。

注2)締め付け軸力:ねじ締め付け時、ねじの軸部に作用する引張力。

注3)ねじ面摩擦:おねじとめねじのねじ接触面に生じる摩擦力。

注4)座面摩擦:ねじまたはナットの座面と締め付けられる部材が接触する面に生じる摩擦力。

 

ねじの締め付けで生じる部材内部のひずみを可視化する

ねじの締め付けで生じる部材内部のひずみ変化を観察する方法として、透明なプラスチックやガラスなどを用いた光弾性法による解析手法があります。光弾性法は、部材に外部応力を加えることにより複屈折性が生じ、部材を透過する平行光により観察できる干渉縞を偏光板を通して観察する方法です。

本研究で用いた、透過光弾性法による偏光計測実験装置の概要は図2のとおりです。光源には、白色LED光を使用しています。また、ねじ締め付け試験装置は、前後を偏光板で挟まれています。可視化された干渉縞の変化は、高速度カメラにより撮影されます。

 

偏光計測実験装置の概要の図

図2 偏光計測実験装置の概要
 

図3は、アクリル樹脂で作成した偏光計測用被締結体ジグです。直径12 mm長さ50 mmの円筒部の中心に、内径寸法M5のめねじ加工がされています。このジグを、図4の締め付け試験装置の被締結体部に設置し、ねじ締め付けを行います。

ねじ締め付け試験装置のねじと被締結体は、締め付け速度20 rpm、締め付けトルク2 Nmの条件で締め付けられます。このときの被締結体内部における干渉縞の変化する様子を、高速度カメラにより6,400 fpsの速度で撮影(録画時間は約0.15 秒)します。なお、実験では呼び径M5の鋼製ねじを使用しています。

 

偏光計測用被締結体ジグの画像

図3 偏光計測用被締結体ジグ

ねじ締め付け試験装置の概要の画像

図4 ねじ締め付け試験装置の概要

0.15秒間に起こるひずみの伝播を可視化する

図5は、透過光弾性法により得られた被締結体内部のひずみ伝播挙動を時系列に示したものです。

締め付け開始直後の0.03秒では、ねじと被締結体の噛み合い部にわずかなひずみが生じています。
締め付け開始から0.06秒後では、被締結体上端部にひずみの増加が観察されます。また、ボルトと被締結体噛み合い部のひずみは、減少しています。
0.09秒後から締め付け終了の0.15秒後に至るまでには、締め付け開始から0.06秒後に観察された被締結体上端部のひずみが、大きくなりながら被締結体の中央付近に向けて、下方向に移動していることが観察できます。また、ねじ噛み合い部のひずみも、減少する傾向が確認できます。

これらの観察結果から、ねじ締め付けとともに、ひずみが被締結体上部から下方へ向かって増大しながら伝播することが明らかとなりました。本研究で提案する高速度カメラを用いた偏光計測により、ねじ締め付け時のひずみが被締結体内部をどのように伝播するのか、0.15秒間に起こすひずみの伝播を実際に可視化することが可能となりました。

 

偏光計測による被締結体内部のひずみ伝播挙動の可視化の図

図5 偏光計測による被締結体内部のひずみ伝播挙動の可視化

 

今後の展開

ひずみの伝播挙動を可視化した結果、ねじ締め付け時に生じる被締結体内部のひずみが、締め付けとともに被締結体の上端から中央部へ向けて伝播することが確認できました。しかし、これらの結果は定性的な評価に留まっています。今後は、可視化結果の定量化を行うことで、ねじ締結の強度設計に使用できるデータの取得を試みます。

本研究にご興味のある方は、お気軽にご相談ください


 

(外部リンク)

櫻庭研究員の写真

事業化支援本部 地域技術支援部
城東支所

主任研究員
櫻庭 健一郎(さくらば けんいちろう)

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