高分解能質量分析計の紹介
公開日:2026年1月5日 最終更新日:2026年1月5日

- 高分解能質量分析計は、目に見えない分子を質量の違いで見分けることができる分析装置です。
- 試料に含まれる主成分、不純物、分解物などを検出し、成分特定や品質評価に関する情報を得ることができます。
- イオンモビリティ分析を組み合わせることで、従来の質量分析では見分けられなかった「分子の形の違い」も分析可能です。
高分解能質量分析計の特徴
高分解能質量分析計は、液体クロマトグラフィーと質量分析装置から構成されます。液体クロマトグラフィーは、試料中の成分をカラムとの相互作用の違いによって分離します。その後、質量分析装置で、分離された成分それぞれの「分子の質量」を高精度に測定します(図1)。
特に、高分解能質量分析計では、質量差がごくわずかな分子同士であっても、明確に区別することができます。本装置は食品、化粧品、医薬品など、複雑な試料に含まれる成分を正確に識別し、成分特定や品質評価に役立つ情報を得ることができます。
試料は液体・固体を問わず対応可能ですが、装置に導入するためには水溶液や有機溶媒に溶けている状態にする必要があります。
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(b) 液体クロマトグラフィーのサンプル導入部。専用の容器に入れた複数の液体試料を連続して装置に導入できます。
化合物の特定
測定で得られた図2のようなクロマトグラムと質量分析スペクトルから、試料に含まれる物質の情報を取得します。解析の精度を上げるためには測定試料に含まれる物質の情報(化学式、構造式など)があらかじめ想定できていることが望ましいです。
図2(a) はロイシンエンケファリン※1を測定した結果のクロマトグラムです。上段のPhotodiode Array Chromatogram(PDA)は光吸収の経時変化、下段のTotal Ion Chromatogram(TIC)は質量分析で観測された全イオン強度の経時変化をそれぞれ示します。横軸は時間、縦軸は各検出器で得られた信号強度を示します。矢印はロイシンエンケファリン由来のピークを示します。
図2(b) はロイシンエンケファリンの質量分析スペクトルです。横軸は質量電荷比、縦軸は検出されたイオンの信号強度を示します。矢印はロイシンエンケファリン由来のピークを示します。
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(b) ロイシンエンケファリンの質量分析スペクトル
※1ロイシンエンケファリン:体内で作られる、鎮痛作用を持つペプチドです。試験用の試薬等に使用されます。
イオンモビリティ分析
イオンモビリティ分析は、質量分析計で得られる分子の質量情報だけでなく、分子の形の違いを区別する測定方法です。分子が持つ立体的な形や大きさによって、ガスの中を通り抜ける速さがわずかに変わります。この性質を利用することで、同じ質量でも形が異なる分子を区別することができます。
図3はGRGDSペプチド※2とSDGRGペプチド※2のイオンモビリティ分析結果です。横軸のドリフトタイムはイオンがガス中を移動するのに要する時間、縦軸は検出されたイオンの信号強度を示します。GRGDSペプチドとSDGRGペプチドは同じアミノ酸(Gly, Arg, Asp, Ser)から構成され同じ質量を持ちますが、並び順が異なる類似ペプチドです。イオンモビリティ分析の結果、2つのペプチドは異なるドリフトタイムにピークを示しており、分子の形の違いを区別できることが示されています。
従来の質量分析だけでは見えなかった「分子の形の違い」を区別し、試料中の類似成分の識別に大きな力を発揮します。
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※2GRGDSペプチド・SDGRGペプチド:どちらも同じアミノ酸で構成されるペプチドです。GRGDSペプチドは細胞接着の働きを持ち、人工皮膚や再生医療などの研究分野で利用されます。一方、SDGRGペプチドは接着力が弱く、比較実験や分析のコントロールとして使用されます。
おわりに
高分解能質量分析計は、分子の質量を高精度に測定することで、目に見えない分子レベルの違いを明確に評価できる分析装置です。食品、化粧品、医薬品といった幅広い分野での品質向上や新製品開発にご活用ください。
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