イメージング質量顕微鏡 -ヘルスケア製品の生体浸透性評価への活用-
公開日:2022年2月15日 最終更新日:2025年3月19日

イメージング質量顕微鏡は、生体試料などに含まれる成分の分子量情報を得る“質量分析部”と、その試料の微細構造や形状を観察する“顕微鏡部”を組み合わせた装置です。顕微鏡観察像の上に調べたい成分をマッピングできます。化粧品に含まれる訴求成分・有効成分などの浸透性を評価することが可能です。
装置の特徴
保湿剤やヘアケア製品など、生体組織へ浸透して機能を発揮する化粧品は多種多様です。
皮膚・毛髪内部への目的成分の浸透性は、化粧品の機能を裏付けるエビデンスとなります。
これまでは、目的成分を蛍光物質等で標識した上で浸透性試験に用いる方法が一般的でした。
皮膚・毛髪などの生体組織(ex vivo試験(※1))や培養皮膚細胞に標識化合物を塗布し(in vitro試験(※2))、蛍光顕微鏡画像から浸透性を評価します。
しかし、標識により目的成分の化学的性質などが変わるため、実際の浸透挙動を評価できない場合がありました。
これに対し、イメージング質量顕微鏡では、質量分析を用いて目的成分を標識することなく検出できるので、目的成分のありのままの浸透性評価が可能です。
イメージング質量顕微鏡の原理と特徴
質量イメージング測定とは、観察領域に存在する目的分子をイオン化させて質量分析することにより、イオンが顕微鏡像のどこにどのくらい存在したのかを可視化する方法です(図1)。
そのためには分子のイオン化が必要になり、本装置にはMALDI(マトリックス支援レーザー乖離イオン化)法と呼ばれる方法が採用されています。
サンプルを乗せたスライドガラスに、“マトリックス”と呼ばれる目的分子のイオン化を促進する化合物をコーティングして、レーザーを照射して分子イオンを発生させることでイオン分布像を取得します。
質量測定部にはQ-TOF(四重極-飛行時間)型分析計を搭載しており、小数点以下4桁程度までの精密質量測定およびMS/MS分析(※3)が可能です(図2)。


イメージングを行う前に、目的分子に由来するイオンを確認し(イオン化能の検証)、
MS/MS分析で分子フラグメント情報を得て分子構造を検証します。
質量イメージング測定の実例
皮膚および毛髪の質量イメージング例を示します(図3)。
重ね合わせ像からそれぞれのイオンが皮膚の角質層と表皮層、毛髪の表層(キューティクル)と内部(コルテックス)に局在する成分であると確認できます。
質量イメージングは他分野への応用も可能です。
具体的には、肉や果物などの食品中に含まれる特定成分がどのように分布をしているのかを把握することで、効率的に有用成分を摂取することや高収率な成分抽出などの応用が考えられます。
また、特定の医薬品や違法薬物は摂取後に毛髪へ移行することが知られています。この際に毛髪を長さ方向に対して質量イメージング測定することで、薬物摂取歴の有無や摂取時期を明らかにすることができるという事例も報告されています。

皮膚画像において、質量電荷比(m/z)が346のイオンを緑色、
m/z 352をピンク色、毛髪画像において、m/z 312を青色、
m/z 435を黄色で表示しています。
質量イメージング測定の応用と展望
ビタミンEとして知られるα-トコフェロールを毛髪に一定時間浸透させた場合の、トコフェロール由来分子のイオンに着目した質量イメージング像を示します(図4)。
浸透後5分で毛髪内部からイオンが検出され、時間依存的にイオン強度が高くなったことがわかります。
このようにして、皮膚や毛髪への目的成分の浸透性を評価することが可能です。

ヘルスケア産業支援室では、ヒト皮膚への浸透性評価を非侵襲に行うことができるin vivo共焦点ラマン分光装置やin vivo共焦点顕微鏡の機器利用も行っております。
これらの装置によるin vivo評価およびイメージング質量顕微鏡によるex vivo評価を組み合わせることにより、目的成分の浸透性に関する多角的な評価を提案できます。
※1 摘除した生体組織を用いた試験。生体を用いた試験(in vivo)の反対語。
※2 “試験管内”試験という意味であり、この場合は培養細胞を用いた試験を指す。
※3 1段目の質量分析計で目的とする分子イオンのみを通過させたのち、アルゴンガスを衝突させることで分子開裂を引き起こし、生じたフラグメントイオンを2段目の質量分析計で測定することにより分子構造に関する情報を得る手法である。
仕様および利用料金
仕様および利用料金については設備ページをご覧ください。
関連情報
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