【役員鼎談】研究や支援の質を高めながら、社会課題の解決にも貢献する組織に
公開日:2024年4月1日 最終更新日:2024年11月12日
経済が回復の兆しを見せるなか、物価高騰や人材難など、中小企業を取り巻く環境には依然として厳しいものがあります。そこで、都産技研として2023年度はどのような取り組みをしてきたのか、その振り返りと、2024年度の展望について3名の役員に話を聞きました。
5G・IoT・ロボットやサーキュラーエコノミーなど、社会的関心の高いテーマに取り組む
――都産技研の2023年度の取り組みについてお聞かせください。
黒部 まずは1月1日の能登半島地震で被害に遭われた方々に、お見舞いを申し上げます。北陸地方の4県にも公設試験研究機関(公設試)が各県に置かれていますが、いずれも建屋や設備に大きな被害は無かったと聞いています。復興には時間がかかるかと思いますが、被災された方々へ私たち公設試も微力ながらお力添えできれば幸いです。
2023年度のプロジェクト型事業を振り返りますと、まずは5年間取り組んできた「中小企業の5G・IoT・ロボット普及促進事業」が最終年度を迎えました。建築現場を支援するロボットなど、省人化に貢献する事例が多数生まれており、さらに本格化させるべく、2024年度以降も技術支援を続けることが決まっています。
また、2023年度には新たに「サーキュラーエコノミーへの転換支援事業」をスタートさせました。初年度はサーキュラーエコノミーの全体像をつかむため、調査研究をメインに取り組んでまいりました。その調査内容は公開セミナーで披露いたしました。2024年度には公募型共同研究を募集し、本格的に事業をスタートする予定です。
都産技研内の取り組みとしては、第4期中期計画の3年目ということもあり、次期中期計画の検討に着手しています。中小企業の経営者の方々との意見交換を行い、多くの貴重なコメントを頂きました。今後は、現場レベルでの交流についても機会を増やしていく必要性を感じています。
十分な技術支援を提供するには、人材育成は欠かせません。各技術者・研究者が先端技術そのものや都産技研としての進め方について、自由闊達に議論できるような場の提供や、互いの研究分野について理解を深め、複数の要素技術を組み合わせた支援につなげられるよう促す施策も行ってきました。2024年度も、DXによる業務効率化とともに引き続き取り組んで参ります。
コロナ禍を経て、支援事業の利用者が回復
――研究開発事業について、具体的な取り組みや成果についてお聞かせください。
角口 「中小企業の5G・IoT・ロボット普及促進事業」については、それぞれの分野において実際に成果が生まれています。普及率が課題となっている5Gについては、ローカル5Gの基地局を実験的に立ち上げられるキットを開発し、試行のハードルを下げる取り組みを行っています。
ロボットとIoTについては、5G通信も利用した屋外巡回警備ロボットや自律型桟橋点検支援ロボットをはじめ、IoT活用による漁場選択支援システムや、道路の空洞調査をAIで効率化するシステム、ブロックチェーンとIoTによる物流支援など、さまざまな分野で支援事例が広がっています。
「サーキュラーエコノミーへの転換支援事業」については、食品ロス対策とプラスチックの3Rに焦点を当て、それぞれの課題解決に資する技術要素を「サーキュラーナビ」という形でまとめました。中小企業の皆さまに「自分たちの技術も関わりがあるんだ」と認識していただき、サーキュラーエコノミー推進を検討していただければと考えています。
また、食品技術センターでは「フードテックによる製品開発支援事業」も進めています。小麦の代替品の開発や、代替肉の研究開発、介護食品の高品質化支援などに、引き続き取り組んでいるところです。
――支援事業については、どのような取り組みを行ってきたのでしょうか。
三尾 依頼試験事業と機器利用事業については、コロナ禍で減少していた利用者が回復傾向にあります。コロナ前に約28万件あった利用が、約21万件ほどまで落ち込んでいたのですが、2023年度は約27万件まで回復する見込みです。
試験サービスでは、国際規格の認定校正サービスの拡充を行っており、2023年度はJCSS(計量法トレーサビリティ制度)の対応分野を拡大しました。多摩テクノプラザや城南支所でも機器の更新を図り、よりよい測定環境や測定データを提供できるようにサービスを整えています。現在改修中の城東支所については、2025年度のオープンを目指して準備をしているところです。また、利便性向上の取り組みとして、機器利用のオンライン予約の試行を始めました。より便利なサービス提供を目指していきます。
情報発信も、私たちの課題の一つです。若い方に向けた発信を強化しようと、昨年度からはSNSを使った発信を強化しています。都産技研のホームページもリニューアル進めており、2024年度中の公開を目指しています。
人材のポテンシャルを引き上げ、組織のさらなる活性化を図る
――2024年度の展望についてお聞かせください。
三尾 コロナ禍では職員同士の横のつながりが希薄になり、特に若手職員は関係性を作ることに苦労しました。そこで昨年度は「3年目研修」と称して、入所3年目の若手職員のポスターセッションを行うなど、所内における交流の場作りにも注力しています。2024年度は、さらに職員の人材育成や、現在の人材採用の在り方についても今一度見直し、各職層の職員が活躍できる環境を整えていきます。
角口 サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルなど、社会的価値をもたらすような切り口の研究を、もっと増やしていけたらと考えています。都産技研のような公設試が行う研究開発では、やはり“ものづくり”に関するものが多くを占める傾向があります。もちろん、中小企業の支援につなげるためにも重要な技術分野ではありますが、社会課題への意識を高めることも大切です。サーキュラーエコノミーにおける「サーキュラーナビ」のように、そのキーワードに関する技術要素を提示して、研究の選択肢を広げるような働きかけをしていければと考えています。
黒部 個々の研究開発や技術支援事業はもちろんのこと、その根底を支える職員のポテンシャルをいかに引き上げていくかが、組織運営に求められていると感じています。私個人としては、「自由闊達だが規律ある組織」が望ましいと思っています。
誰とも気兼ねなく議論ができ、それでいて守るべきことは守る。自由度の高さと倫理観の高さを両立できるような組織開発を図り、さらに都産技研を活性化していくことが大切だと考えています。とても1年で完遂できるような仕事ではありませんので、5年先10年先を見据えながら、組織の成長に取り組めればと思います。
(左から)
理事
三尾 淳(みつお あつし)
理事長
黒部 篤(くろべ あつし)
理事
角口 勝彦(かどぐち かつひこ)
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