強度試験における各種ひずみ計測方法の技術解説
公開日:2025年1月15日 最終更新日:2025年1月17日

製品開発において安全性の評価は欠かせません。安全性評価の手法として強度試験があります。材料試験機を用いて、単点・一方向の荷重を計測する強度試験ができます。しかし、これらでは、製品の各部位の詳細な評価はできません。製品の各部位を評価するには、ひずみ計測を行います。この技術シーズでは複数のひずみ計測方法をご説明し、各製品に適した使用機器の選定方法をご案内します。
ひずみとは
ひずみとは、試験片に引っ張る・押すなどの力を加えた時に生じる変形量の、元の長さに対する割合を示す値です。ひずみは記号εで表され、試験片が変形したときに変形量ΔLを元の長さLで除した値です。式にするとε=∆L/L となります。都産技研ではひずみを計測する方法として以下のものを所有しています。それぞれ有効な測定対象が異なりますので説明いたします。
- クリップ式伸び計
- ビデオ式伸び計
- ひずみゲージ
- デジタル画像相関法によるひずみ計測機
クリップ式伸び計
材料の引張試験では試験片を材料試験機で引っ張ることにより応力の計測結果を得ます。同時にひずみ計測を行うために試験片にクリップ式伸び計を取り付けます。図1にクリップ式伸び計を使用した引張試験の事例を示します。図1(a)のようにクリップ式伸び計は直接試験片に取り付けられ、試験中のひずみを計測します。試験の結果、図1(b)に示す応力-ひずみ線図が取得できます。クリップ式伸び計の特徴を以下に示します。
- 利点:試験片に直接取り付けるため高精度なひずみを計測可能
- 欠点:衝撃に弱いため試験片が破断する前に計測を終了
:薄膜や細線には取り付け不可能
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ビデオ式伸び計
ビデオ式伸び計も主に材料の引張試験で使用します。図2にビデオ式伸び計を使用した引張試験の事例を示します。図2(a)に示すように試験片に標線シールを貼り、その移動量をカメラで撮影しひずみを計測します。試験の結果図2(b) に示す応力-ひずみ線図が取得できます。ビデオ式伸び計の特徴を以下に示します。
- 利点:非接触であるため破断までのひずみが計測可能
:薄膜や細線のひずみの計測可能
:幅ひずみの計測可能 - 欠点:試験初期の微小ひずみの計測が不安定
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ひずみゲージ
上述の2つの伸び計は材料試験片には有効ですが、製品試験では構造が複雑で用いることが難しい場合が多くあります。そのため製品の試験ではひずみゲージを使用します。ひずみゲージは製品に直接貼り付けることで、貼り付けた部分の1~2%のひずみを計測できます。
ひずみゲージを使用した試験事例を図3に示します。図3(a)に示すアイボルトの複数の位置にひずみゲージを貼りつけて、図3(b)の方法で荷重試験を行いました。結果は図3(c)です。CH1~3は外周方向に沿って貼り付けたゲージの位置を示しています。CH1、3では引張ひずみ、CH2では圧縮ひずみが計測されました。製品の引張試験では位置によっては圧縮ひずみが生じます。また、荷重が18kNを超えたあたりでひずみが大きく変動しているため、塑性変形が開始したと推測されます。ひずみゲージは局所的なひずみを計測します。そのため複雑な形状をした製品の評価をする際は、どの位置に貼り付けるかが重要となります。ひずみゲージの特徴を以下に示します。
- 利点:局所的なひずみを計測可能
:複数ひずみゲージを使用し、おおまかなひずみ分布が把握可能
:試験片および製品に直接取り付けるため高精度なひずみを計測可能 - 欠点:大ひずみの計測には不向き

デジタル画像相関法によるひずみ計測機
デジタル画像相関法(DIC法)により、三次元のひずみ分布を非接触で計測することができます。DIC法は、最初に試験片の表面にランダムパターンを塗装します。そのパターンをカメラで撮影し、複数の微小な矩形領域に区分けし、個々の領域の中心に座標を得ます。その後、変形前後の画像相関により、各領域の座標変化を読み取ることでひずみを計算します。DIC法は試験品の荷重試験時の広範囲のひずみ分布が計測できるので、設計へのフィードバックが容易です。また、計測結果をシミュレーション結果と比較することで、解析結果の妥当性の検証も可能です。DIC法の特徴と事例を以下に示します。
- 利点:破断までの広域のひずみ分布を時系列で計測可能
:形状や材質を問わず三次元のひずみ分布が計測可能 - 欠点:カメラの死角は計測不可能
:光が反射する箇所は計測不可能
事例1 アイボルトの引張試験
ひずみゲージの項で紹介した事例と同じアイボルトの引張試験時に生じるひずみをDIC法により計測した事例を図4に示します。撮影した面全体の相当ひずみ分布が計測可能です。ひずみゲージではこのような連続したひずみ分布の計測は困難です。ただしひずみゲージを貼ったCH1のようなカメラの死角になる箇所は計測できません。

事例2 Al合金製パイプの圧縮試験
試験片は外径50mm、肉厚1.5mm、高さ100mmのAl合金製パイプとし、圧縮荷重により座屈する様子を撮影しました。試験品の中央部は照明の反射が大きく、ノイズが生じたため避けて計測しました。Al合金製パイプを圧縮し座屈する過程をDIC法で観察した結果を図5に示します。図5を観るとひずみは均等に分布せず、座屈する箇所約10mmの範囲に集中し、それ以外の部分はほとんど塑性ひずみが生じていないことが分かります。

まとめ
各種ひずみ計測の特徴を活かすため複数の方法を組み合わせると、より多くの情報が得られます。表1に各種ひずみ計測の特徴、表2に利用の手引きのまとめを示します。本記事では当センターで所有しているひずみ計測の技術についてご紹介いたしました。ご関心をお持ちの方はぜひご相談ください。
表1 各種ひずみ計測方法の特徴のまとめ
計測方法 | 微小 | 大 | マクロ領域 | ミクロ領域 | 薄板 | 細線 | 製品 | 手軽さ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
クリップ式伸び計 | 〇 | △ | 〇 | × | × | × | × | ◎ |
ビデオ式伸び計 | △ | 〇 | 〇 | × | 〇 | 〇 | △ | ◎ |
ひずみゲージ | 〇 | △ | × | 〇 | △ | × | 〇 | 〇 |
DIC法 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | △ | 〇 | △ |
表2 利用の手引き
計測方法 | 装置の一例 | 依頼試験項目 | 料金 | |
---|---|---|---|---|
中小 | 一般 | |||
クリップ式伸び計 | 製作者:島津製作所 | 金属材料の引張試験 (500kN以下の試験機による耐力測定を伴うもの) | 6,630円 | 12,380円 |
ビデオ式伸び計 | 製作者:島津製作所 | 金属材料の引張試験 (500kN以下の試験機による耐力測定を伴うもの) | 6,630円 | 12,380円 |
ひずみゲージ | 製作者:共和電業 | 使用するひずみゲージの数によって異なるのでお問い合わせください | ||
DIC法 | 製作者:GOM社 | オーダーメード型技術支援となるためお問い合わせください |
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