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小角X線散乱測定から得られる情報 −ヘルスケア分野を中心に−

印刷用ページを表示する 更新日:2022年4月1日更新

小角広角X線散乱装置

小角X線散乱法は測定対象物のナノスケールの構造解析を得意とする測定手法です。X線照射により発生する試料の規則構造に由来する散乱X線を得ることにより、構造解析を行います。本稿では化粧品で頻用されるαゲル、および毛髪の構造解析事例について紹介します。

バイオ技術グループ TEL. 03-5530-2671

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小角X線散乱測定の概要

小角X線散乱(Small Angle X-ray Scattering; SAXS)はナノメートルスケール(1 nm=10-9 m)のサイズの微細な構造解析を得意とする測定手法です。

微細構造を観察する一般的な方法としては顕微鏡観察がありますが、ナノメートルスケールの観察は困難です。また、電子顕微鏡観察では乾燥などの構造変化を伴う前処理が必要となることが多く、試料が本来有している構造を観察することは困難です。

SAXSでは液体および固体試料を前処理せず測定可能です。

観察像が一目でわかる顕微鏡と異なり、構造情報がX線散乱パターンとして得られるSAXSは直感的にわかりづらく思われるかもしれません。

そこで本稿では、SAXSの測定原理の概要と測定の実例を示すことにより、SAXSからどのような情報を得られるのか、およびヘルスケア分野の製品開発にどのように役立てられるのかを紹介します。

 

SAXS測定の原理

測定の模式図を示します(図1a)。

X線が試料に照射されると、試料の規則構造に由来する散乱X線が発生します。散乱X線を2次元(2D)検出器で測定し2Dパターンを得ます。

2Dパターンには散乱ベクトルq(nm-1の単位で示され、この値が大きいほど、散乱角度が大きい)と強度値(arbitrary unit (a.u.)の単位で示される)の情報が含まれており、任意の領域を積分することにより、横軸が散乱ベクトルq、縦軸が強度I(q)からなる1次元(1D)パターンを得ます。

一般的によく知られている広角X散乱(WAXS)とSAXSの違いを示します(図1b)。

WRDとも呼称されるWAXSは主に結晶サイズの構造(約10-1 nm)の情報を有しているのに対し、SAXSはWAXSよりも大きい構造(約100–102 nm)の情報を有しています。

都産技研保有の装置は結晶サイズに対応するWAXS測定から、100–102 nmサイズに対応するSAXS測定まで、幅広い範囲の構造情報が取得できます。また、液体、ゲル、固体など、さまざまな状態の試料を測定可能です。

 

X線散乱測定の概念図

図1 X線散乱測定の概念図。

(a) 測定の模式図。(b) SAXSとWAXSの違い。WAXSは単位格子の面間隔や高分子結晶の大きさなどを、SAXSは単位格子から構成されるラメラ構造※1の面間隔や高分子の結晶-非晶の繰り返し構造の大きさなどの情報を有する。

 

αゲルの構造解析

αゲルとは高級アルコールや界面活性剤および水から構成されるネットワーク構造からなります。

αゲルはラメラ構造とよばれる層状構造をネットワーク内に持ち、層間に親水性・親油性物質などのさまざまな成分を保持できることから、化粧品製剤として汎用性が高いことが知られています。

化粧品で頻用されるαゲルの測定例を示します。

αゲルの同定には、ラメラ構造由来の周期的なピーク、および結晶構造の単位格子である六方晶に由来するピークの検出を指標とします。

αゲルを含む市販品ヘアコンディショナーの測定例を示します(図2)。

SAXS領域において三つのピークが見られており、ラメラ構造が形成されていることがわかります(図2b)。さらに、六方晶に由来する鋭いピークがWAXS領域で見られており、αゲルの存在が確認できます。

 

ヘアコンディショナーに含まれるαゲルの測定例

図2 ヘアコンディショナーに含まれるαゲルの測定例。

(a) コンディショナーの2Dパターン。(b) SAXS領域の1Dパターン。観測されたピーク位置を矢印で示す。(c) WAXS領域の1Dパターン。

 

毛髪の構造解析

毛髪の規則的な階層構造の一つである中間径フィラメント(Intermediate Filament; IF)※2の情報も取得可能です。

2種類の毛髪のSAXS測定例を示します(図3)。

IF由来のピークは0.7–0.8 nm-1付近に出現することが知られており、いずれの毛髪とも当該ピークが確認できます。

毛髪Aと毛髪Bでピーク強度に違いが見られるのは、IF構造の存在比率が異なることを示しています。

IF構造は紫外線やブリーチ及びパーマ処理によって生じるダメージの履歴を有していることから、IFのピーク強度の比較によって毛髪のダメージ評価が可能です。

従来、IFのSAXS測定とその評価は大型の放射光施設で実施することがほとんどでしたが、都産技研ではラボレベルの装置で簡便に試験可能です。

 

毛髪のSAXS測定例

図3 毛髪のSAXS測定例。

(a) 毛髪Aおよび(b) 毛髪Bの2Dパターン。(c) それぞれの毛髪の1Dパターン。IF由来のピークを矢印で示す。

 

まとめ

SAXS測定の概略と測定例について紹介しました。

αゲルの構造設計、毛髪のダメージ評価など、SAXSはヘルスケア分野の製品開発のツールとなります。

さらに、ヘルスケア産業支援室ではSAXSと組み合わせた多角的な試験が提案可能です。

具体的には、αゲルでは偏光顕微鏡観察やレオメーターによる物性評価、毛髪では電子顕微鏡観察や毛髪多目的試験機による力学特性評価等の組み合わせ試験が提案できます。

皆さまのお問い合わせを心よりお待ちしております。

 

※1 広義には層状構造などが積層している構造を指す。ヘルスケア分野では角層細胞間脂質やαゲル中で形成される積層構造を指すことが多い。

※2 毛髪は外側からキューティクル、コルテックス、メデュラの三つの構造からなる。IFはコルテックスにおける階層構造の一つを指す。ケラチンモノマーを最小単位として高次構造が形成されIFに至る。

 

仕様および利用料金

 

仕様および利用料金については設備ページをご覧ください。

 


 

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