ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > カテゴリ > 事業紹介 > 「現場技術者のための めっき排水の処理技術」 著者インタビュー

「現場技術者のための めっき排水の処理技術」 著者インタビュー

印刷用ページを表示する 更新日:2021年11月1日更新

トップイメージ


2021年9月、都産技研の有償書籍出版として『現場技術者のための めっき排水の処理技術』が発行されました。本書が書かれた背景や、その内容について、著者の一人であるプロセス技術グループの田熊 保彦 主任研究員に話を聞きました。

(外部リンク)

初心者から熟練者まで、めっき排水処理を網羅的に学べる解説書

表紙画像工場などから出る排水には排水基準による規制があり、その範囲は多岐にわたります。『現場技術者のための めっき排水の処理技術』は、排水処理技術の中でも特に難しい、めっき排水の処理技術に特化した解説書として出版されました。

「ベテランの技術者から若手まで、誰でもめっき排水処理が理解できるように意識しました。排水処理に詳しくなくても、めっき工場で働いていれば、どのような流れで排水が処理されるか把握できるよう構成しています」(田熊)

第1章では、めっき排水に関連する法律などから「なぜ排水処理が必要なのか」という背景を解説。第2章からは、各工程における処理プロセスに触れ、工場全体の最適化の検討、不良事例によるケーススタディなど、めっき排水処理を網羅的に学べる内容となっています。

第1章 排水処理を始める前に

第2章 めっき排水処理各論

第3章 工場全体で排水処理を考える

第4章 処理不良の事例と対策

第5章 さらに詳しく学ぶための理論解説

「排水処理は製造工程から発生する水を処理するものですが、そもそも上流の生産工程で“処理が必要なもの”を含まなければ、排水処理も最小限で済むはずです。そこで本書では、技術的なプロセスだけでなく、工場全体の製造工程をどのように見直せばいいかについても記載しています」(田熊)

 

避けては通れない、めっき排水に関する課題

田熊研究員が所属するプロセス技術グループでは、めっき排水について重点的に支援を行っています。東京都内には中小のめっき工場が約300社あり、東京都鍍金工業組合と協力のうえ、各工場を巡回して排水処理の指導を行うこともあります。

 

ICP分光分析装置の写真

ICP発光分光分析装置
液体中の元素の測定を行う装置で、主に排水に含まれる重金属の分析に使用している。

 

「巡回で対応した事例はグループ内で共有しており、よくある事例について第4章で取り上げました。『放流水中にシアンが検出される』『排水処理装置では処理が困難な物質が流入する』など、実際の現場で生じている事例と、その対策について説明しています」(田熊)

こうした問題が起きる背景には、「現場での技術伝承が十分に行われていない」という課題があるといいます。

「実際に工場を巡回すると、排水処理設備の設定値が高すぎたり、低すぎたりすることがあるんです。工場の担当者も、なぜこの数値に設定されているかわからない。恐らく何かの理由があって設定値を変え、その理由が伝わらないままになってしまったと思われます。排水処理の担当者が世代交代をするなか、技術伝承がきちんと行われないと、こうした問題が起きてしまうのです」(田熊)

また、排水処理設備の見直しが必要となるケースもあります。これまでと違うめっき液を使用する場合、今まで使用していた排水処理設備では対応できない可能性もあるのです。排水の規制が強化され、従来の設備では対応できなくなった事例もあります。

「排水基準はこの数十年のあいだに徐々に厳しくなっています。最近では、ホウ素やフッ素、亜鉛の規制が厳しくなり、頭を悩ませているめっき工場も少なくありません。環境規制を遵守するためにも、本書が少しでも役に立てればと思います」(田熊)
 

環境対策は「工場を改善するきっかけ」でもある

本書の企画が決まったのは2020年4月ごろ。田熊研究員をはじめ4人の著者が名を連ねているのは「所内の技術伝承の一環でもあった」といいます。

「著者の一人である小坂 幸夫(プロセス技術グループ 技術アドバイザー)は、排水処理を専門とするベテラン職員です。当初は『小坂が長年培ってきた技術を本にできないか』という話だったのですが、若手が文章を書き、それを小坂が監修するという形を取りました。文章を書くにあたり、いろいろ調べることは勉強になりますし、誤った理解を修正する機会にもなると考えました」(田熊)

 

田熊研究員の写真

 

執筆はコロナ禍で行われました。ちょうど在宅勤務に切り替わるタイミングだったため、あまり打ち合わせはできず、分担だけを決め、それぞれが自宅で執筆を進めました。

「離れた場所で書いていたため、全員分の原稿を集めてみると、重複した部分や、説明の詳しさに差がある部分がありました。それらを全体的に調整して、一通り完成したのが2020年の年末。そこから出版社のチェックや校正が入り、スタートから1年半近くかけて書籍の形になりました。実際に手に取ったときは、やはり達成感がありましたね」(田熊)

SDGsをはじめ、環境への意識は年々高まりを見せています。環境に取り組まないことが、今後の取引に影響を及ぼす可能性もあるでしょう。「やらされるもの」「やらなければならないもの」と思いがちな環境対策ですが、むしろ「工場を改善するきっかけと捉えてみては」と、田熊研究員は話します。

「排水処理はもちろんのこと、製造工程全体を見直し、なるべく無駄がないように最適化することも重要です。廃棄される部分を絞れれば、使う材料も減り、コスト削減につながります。ライフサイクルアセスメントやマテリアルフローコスト会計など、最適化にまつわる情報も解説していますので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです」(田熊)

 


 

(外部リンク)

田熊研究員の写真

開発本部 マテリアル応用技術部

プロセス技術グループ

主任研究員

田熊 保彦(たくま やすひこ)

お問い合わせ先

技術相談依頼試験・機器利用について

技術相談受付フォームはこちらから(外部リンク)

TIRI NEWSへのご意見・ご感想について

TIRI NEWSへのご意見ご感想フォームボタン

※記事中の情報は掲載当時のものとなります。


ページの先頭へ