ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > カテゴリ > 研究事例紹介 > 人間工学の観点で「脱ぎやすい防護服」を開発。デザインで既製品との差別化を図る

人間工学の観点で「脱ぎやすい防護服」を開発。デザインで既製品との差別化を図る

印刷用ページを表示する 更新日:2021年4月15日更新

脱ぎやすい防護服のトップ画像

新型コロナウイルスの感染拡大により、医療現場では防護服が欠かせない存在となっています。都産技研では防護服の「脱ぎにくさ」に着目し、安全かつ迅速に脱衣可能な防護服の製品開発を行いました。開発の背景や実現方法について、製品化技術グループの加藤 貴司 主任研究員に話を聞きました。(特許第5560065号、特許第5560066号、特許第5650916号

(外部リンク)

なぜ「防護服が脱ぎにくい」のか

防護服に着目したきっかけは、2009年に世界的に流行した鳥インフルエンザ/新型インフルエンザです。医療や汚物処理の現場で迅速な対応が求められる中、都産技研として何か貢献できることはないかと模索したところ、防護服にたどり着きました。

防護服の生地は、使用される現場によって求められる物性(引張や摩耗などへの耐久性)が異なり、特殊な加工が施されることも少なくありません。消耗品であるため販売価格も重視され、現状は大手企業が製造する防護服がシェアの多くを占めています。そこで中小企業を支援する立場から、生地ではなくデザインの観点で新しい防護服を提案できないかと考えました。

基盤研究注1を始めるにあたり、医療関係者から既製品の防護服についてヒアリングを行ったところ、「脱ぎにくい」という声を聞きました。既製品の防護服はフードが付いた『つなぎ』の形状で、前開きのものがほとんどです。着衣時は防護服が清潔であるため、通常の着衣動作が可能で開口部から体を入れて着ることができますが、脱衣時は慎重な脱衣が求められます。防護服の前面には汚染物質が付着している可能性があるため、前面に触れないように防護服を脱衣する必要があるためです。

注1)基盤研究:都産技研が独自に計画・実施する研究のこと。詳細は基盤研究のページをご覧ください。

研究について語る加藤貴司主任研究員の写真

研究について語る、加藤 貴司 主任研究員

人間工学の観点から課題を抽出

基盤研究では医療機関への取材を行い、防護服の正しい脱ぎ方を指導していただきました。前開きの防護服を脱ぐ場合、開口部を開き、汚染面を内側にくるむように前から後ろへ脱ぐことが推奨されていました。医療用ガウンには、バリア性を高めるため後ろ開きで作られたものもあり、こちらも汚染面をくるむように脱ぐことは変わりません。

前開きの既製品の写真

前開きの既製品

医療用ガウンの脱衣方法の写真

医療用ガウンの脱衣方法
袖を裏返しにして腕を抜き、前面を前へくるむように包み込む

前開きの既製品防護服に対し人間工学の観点から行動観察を行い、脱衣時にどの部分が問題点になっているのか検討した結果、「既製品の防護服は肩幅に対して開口部が狭いため、脱ぎづらさを感じるのでは」という仮説を立てました。開口部を前面にとると、首元から股下までの長さが開口部の最大長となります。より広く開口部を取る方法として、以下の3つのアプローチを考案しました。これらは実際に試作を行い、衣服形状を確かめています。また、それぞれの衣服形状に関して特許を出願し、現在は取得に至っています。 

  1. 手首から腕、脇の下を通り、脇腹にそって腰に至るまでの経路を開口部とする(特許第5560065号(外部リンク)
  2. 頭頂部から後頭部を通り、背中に沿って腰に至るまでの経路を開口部とする(特許第5560066号(外部リンク)
  3. 手首から腕を通り、そのまま首から頭頂部を経由して、反対側の腕から手首へ至る経路を開口部とする(特許第5650916号(外部リンク)) 

衣服形状で既製品との差別化を図る

試作にあたっては、不織布の製造技術や、防護服の販売実績がある、株式会社エヌ・ティー・シーとの共同研究という形を取りました。2010年には、東京ビッグサイトで開催されたオフィスセキュリティEXPOで防護服の試作品を展示し、訪れたユーザの意見を踏まえて、上記 2. 案を採用することとしました。

ただ、2. 案は後ろ開きであり、「1人での脱衣が難しい」という課題があります。そこで、救命胴衣などに用いられるトップオープンファスナーを採用しました。左右に引っ張るだけで閉じたファスナーを簡単に開けられるもので、背中に手を回せば1人で後ろの開口部を開けることができます。そのまま生地を内側にくるみながら簡単に脱衣ができるよう、ユーザビリティを考慮したデザインを実現しました。

開発した防護服の写真

開発した防護服
背面にトップオープンファスナーを採用し、左右の張力で開口部が開く

トップオープンファスナーの動作説明写真

トップオープンファスナーの動作
ファスナー終端部からさらにスライダーを引くことでスライダーが外れ、
左右の張力でファスナーを開くことができる

本研究は衣服形状で既製品との差別化を図ったものであり、防護服の生地を用途によって切り替えれば、さまざまな現場での応用が可能です。医療現場のみならず、防塵が求められるクリーンルームなど産業用途への展開も想定し、製品化を図っています。

デザインを研究領域とする強み

都産技研ではデザインも研究領域としており、今回の開発では「課題をゼロから見つける」という点で、その強みが発揮されたと感じています。

基盤研究では、既製品の防護服を着脱する様子を動画に収め、それを繰り返し確認しながら、「どのように手を動かしているか」「どうすれば生地をくるみやすいか」を分析していきました。人間工学の観点で行動観察を行い、課題を見つけ、解決するデザインを提供する。その一連の流れに私たちの強みがあると思います。

また、プロトタイピングも私たちの強みの一つです。せっかく試作品を作ってデザインを検討しても、工業的に製造が難しければ市場に送り出すことはできません。都産技研には、型紙作成や縫製、不織布の超音波溶着などの産業設備が揃っており、工場と同じ設備でプロトタイプを作ることができます。生産現場を踏まえた設計により、開発の効率化が実現可能です。

都産技研にはオーダーメード型技術支援共同研究、受託研究といった支援メニューが揃っています。防護服に限らず、デザインで何らかの課題をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

都産技研所有の工業用ミシンの写真

都産技研所有の工業用ミシン

ミシンを扱う加藤貴司主任研究員の写真

ミシンを扱う、加藤 貴司 主任研究員


 

(外部リンク)

加藤貴司主任研究員のプロフィール写真

事業化支援本部 技術開発支援部
製品化技術グループ
主任研究員
加藤 貴司(かとう たかし)

お問い合わせ先

技術相談依頼試験・機器利用について

技術相談受付フォームはこちらから(外部リンク)

TIRI NEWSへのご意見・ご感想について

TIRI NEWSへのご意見ご感想フォームボタン

※記事中の情報は掲載当時のものとなります。


ページの先頭へ