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火山灰からなにかを―三宅島火山灰の堆積状況現地調査の結果について

印刷用ページを表示する 更新日:2016年12月19日更新

 

主な調査地点 

三宅島火山灰の堆積状況現地調査の画像

概要

産業労働局では、この間、研究開発を進めてきた三宅島火山灰利用技術を用いる産業振興の実現可能性について調査するため、昨年11月に、4名の調査団(団長:本阿弥忠彦産業技術研究所生産技術部長・三宅島火山灰利用製品開発推進委員長)を派遣した。調査団は火山灰の分布及び堆積の状況、現在堆積している火山灰の組成の現状等を現地で調査し、持ち帰った試料について詳しい性状と組成の分析を行った。

その結果、火山灰は泥流となってかなり消失しているとはいっても、まだ十分な量が堆積して残っていることが確認された。

現在、産業技術研究所が進めている6種の利用方法に関して火山灰の組成について検討を加えた結果、三宅ガラス製造に必要な硫黄成分は一部損失し含有率が低下しているものの、支障なく、他の利用技術についても、今後、利用に向けて適切に火山灰の保管・管理を行えば、実用化に支障がないことが明らかになった。研究成果が三宅島復興時に実用化されて使われる火山灰量は数万トンと見込まれるため、各利用目的に適する質の火山灰をそれぞれ量的にも確保することが可能であるとの見通しを得た。

産業労働局では、今後、利用製品の技術開発をすすめるとともに、火山灰の保存法に関する検討を進め、三宅村、災害対策本部の協力を得ながら、三宅島火山灰利用による産業振興を支援するための施策を進める予定である。

 資料1 調査の概要

1 目的

産業技術研究所では三宅島雄山の噴火で島内に大量に堆積した火山灰を有効利用し、島の復興、産業振興に役立てるため、三宅ガラス、建材用セラミック製品や繊維染色への応用等の技術開発に取り組み成果を挙げてきた。

島民が帰島したとき、これらの開発技術を観光みやげや土木・建築資材などの産業用として活用していくためには、安定的に良質な火山灰を確保しておく必要がある。

堆積した火山灰は、降雨により灰から塊状になり、硫黄分などの成分の溶出で火山灰の組成が変化してきていることも考えられる。

このため、火山灰の堆積状況、分布状況、組成の現状等を現地調査し、今後の利用製品の技術開発、火山灰保存法検討などに役立てる。

なお、調査に当たっては東京都災害対策本部現地対策本部の協力を得る。

2 調査日時

平成13年11月27日(火曜日)1日

3 メンバー

商工部

  • 創業支援課 課長 保坂政彦

産業技術研究所

  • 生産技術部 部長 本阿弥忠彦(三宅島火山灰利用製品開発推進委員長)
  • 生産技術部 材料技術グループ グループ長 鈴木蕃(三宅ガラス開発担当)
  • 技術企画部 八王子分室 主任研究員 池田善光(火山灰繊維利用開発担当)

 4 調査項目

  • 堆積状況集落、山腹部、集積場所等の堆積量、泥土との混合、降雨・泥流状況等による火山灰の流出状況等
  • 粒度各所の火山灰の粒の大きさ、塊状況等
  • PH 酸・アルカリ性の強さPH等

島の各所で採取したサンプルについては持ち帰り、産業技術研究所において詳細な性状および組成の分析を行う。

 資料2 現地調査報告

 1 火山灰の現状

阿古、伊ヶ谷および伊豆地区を中心として島を一周する都道の両側に火山灰の入った土のうが大量に置かれていることを確認した。家屋周辺には噴火初期の純粋な火山灰がつめられた土のうが多数積み上げられていることが認められた。約20kg入りの土のうが数千個あり、土のうに詰めて保管されている火山灰は数百トンに達するものと推定した。

村営牧場等の雄山中腹より上の部分では、一部雨によって流された形跡はあるものの、雨で締まり硬い粘土状となった火山灰が厚く堆積していた。また、降灰量の多かった伊豆、伊ヶ谷地区では、林道の脇等に大量の火山灰が積み上げられており、島北東部の赤場暁周辺の窪地では、周囲から流れ込んだ火山灰が厚く堆積していた。

2 火山灰試料の分析結果

阿古、伊ヶ谷地区2ヶ所の土のうから火山灰をサンプリングし、成分を分析した。その結果、化学組成は昨年夏の降灰時とほとんど変化していないことがわかった。

また、村営牧場とひょうたん山裾のくぼ地を調査した結果、現在のところ両地域とも不純物の少ない火山灰がかなり残っていることが確認された。村営牧場に堆積している火山灰を分析した結果、いおうおよびカルシウムが若干減少しているものの化学組成から判断してガラス原料には使用可能ではないかと思われる。ひょうたん山裾くぼ地では表面と深さ30cmの火山灰を採取し分析した。表面の火山灰はいおうが80%消失していたが、深さ30cmの火山灰はいおうが60%程度残っていた。実験で確認しなければわからないが、ひょうたん山裾くぼ地の火山灰もガラス原料に使える可能性はある。

 3 三宅ガラス利用の可能性について

土のうに入った火山灰は純度が高くガラス原料として十分使用可能である。

三宅ガラスはガラス重量の7.5%だけ火山灰を配合して造られるものである。コップなどのガラス製品1個の重量が200gであれば火山灰は15g使用されていることになる。三宅ガラス製品の年間生産量が十万個20トンと仮定しても火山灰の使用量は年間1.5トンである。したがって、三宅ガラス製品の製造には土のうに入っている火山灰で十分に需要を賄えると考えられる。

以上により、現在残された火山灰を保存,管理すれば三宅島復興後の三宅ガラス特産品づくりは問題なく行えると判断される。

 4 その他の工業利用の可能性について

三宅島火山灰の有効利用に関し、産業技術研究所で企業と共同開発研究を進めているつぎの3つの技術についても、火山灰利用可能性を検討した。

  1. 火山灰とガラスからのゼオライト製造技術の開発
  2. 三宅島火山灰を利用した固化剤の開発
  3. 三宅島火山灰を主原料とする水プラズマ溶射法による構造用材料等の開発

これらに使用する火山灰は、目的に応じて一定の粒度のものを必要とするが、化学組成が多少変動しても問題とならない。純度の高い火山灰でも純度の低い火山灰であっても篩い分けを行う。その過程で木の葉やスコリアなど異物は除去される。したがって、スコリアなどと混ざった泥流であっても火山灰が残っていれば使うことが出来る。今回の調査で、火山灰は泥流となってかなり消失しているとはいっても、まだ十分な量が堆積して残っていることが確認された。この三テーマの研究成果が三宅島復興時に実用化されて使われる火山灰の量は数万トンと見込まれる。降灰量1700万トンからみればわずかな量であり、村営牧場やひょうたん山裾くぼ地だけでなくスコリアや草木と混ざった火山灰は十分な量全島に堆積している。

以上により、これら三テーマの実用化についても問題はないと考える。

5 染色・プリント等繊維製品への利用可能性

採取した試料が火山灰媒染に利用可能であるか、噴火当時の火山灰との比較を行った。火山灰媒染の場合に重要なのは、水中にどれだけの鉄分((2)価でも(3)価でもかまわない)が抽出されるかということである。2個所(伊豆地区の土のう、赤場暁周辺の窪地)で採取した火山灰について試験した結果、いずれも噴火当時の火山灰と鉄分量および媒染効果に差がないことがわかった。また、火山灰中に土砂や木々の枝葉等の不純物が混入していても媒染に問題ないことから、泥流化した火山灰でも利用可能であると推察された。

火山灰プリントに関しては、いずれの火山灰についてもプリントに適した200メッシュ以下の灰が充分に含まれており、プリントには支障がないことがわかった。また、プリント糊を作る際には灰のふるい分け操作を行い、細かい灰だけを利用するので、不純物の混入も問題なく、泥流化した火山灰でも利用可能であると推察された。

火山灰媒染には、繊維と同重量の火山灰があれば充分との試験結果が得られており、仮に、土のうを25kgとすると、2袋あれば50gのスカーフを1000枚染色できる計算された。

火山灰プリントに関しては、使用する糊の中に200メッシュより細かい火山灰を15%程度混ぜることから、コースター一枚に使用する糊量を1gと見積もっても、必要な火山灰は0.15g/枚となる。細かい粒度の灰の割合が30%含まれているとすると、土のう一袋で5万枚以上プリントできると推定された。

火山灰染色においては、不純物の混入はあまり問題とはならず、土のう以外でも随所に堆積している火山灰が利用できることから、島内には火山灰染色に必要な量の火山灰が充分に確保されていると判断された。

なお、今回の調査で、三宅島には植物染料として重要な「シイ」や「ヤシャブシ」等の植物が豊富に自生しているが認められた。三宅特産の赤芽イモを用いると植物染料では貴重な赤系の色が得られることもわかった。これら三宅特産の植物染料と火山灰を組み合わせることにより、染色色材のほとんどすべてを島内でまかなうことも可能である。

火山灰プリントに関しては、火山灰の採取場所によって色が異なることから、色に変化を持たせたプリント品の制作が可能なこともわかった。

6  今後の課題

土のうに詰められた火山灰及び堆積した火山灰がそれぞれの利用技術に必要な原料としての質を維持し、かつ量的に利用可能であることについて確認することができた。ただし、土のうの多くは袋に破損が認められ、このまま長期にわたって放置したのでは雨などで流失する恐れがある。火山灰有効利用を前提に、早急に産業振興のための資源として保存の対策が望まれる。

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