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福島第一原発事故に伴う環境放射能測定

印刷用ページを表示する 更新日:2016年12月19日更新

永川 栄泰[発表者](バイオ応用技術グループ)

1.環境放射能測定について

環境放射能測定は核実験や原子力発電所の事故が生じた際、放射性物質を検知し一般市民に無用な放射能被ばくをさせないことを目的としている。都産技研では旧駒沢支所の前身である都立アイソトープ総合研究所(以下、東ア研)の時代から、36年にわたって環境放射能測定を行っている。1986年のチェルノブイリ原発事故では東ア研が中心となって都内の放射能測定を行い、同年5月3日には核分裂生成核種である131Iを日本で初検出した。また、1999年のJCO臨界事故、2006年、2009年の北朝鮮による核実験の際にも、東京都の地域防災計画(原子力災害対策)に基づき、24時間体制で放射能測定を行った。
  東日本大震災により生じたこの度の福島第一原子力発電所の事故においても測定体制を強化し、地震翌日の12日より大気浮遊塵中の放射能測定を24時間体制で行っている。本稿では5月31日までの大気中の放射能濃度の変化について述べる。

2.測定方法及びGe半導体検出器について

大気浮遊塵は、ハイボリウムエアサンプラーにろ紙を取り付けて捕集を行った。(図1)。吸引量は36m3/時、地面より約1mの高さで捕集した。捕集場所(世田谷区深沢 旧駒沢支所)でNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータにて空間線量率をモニタリングし、値の変化に合わせて捕集時間を変更した。モニタリング開始時の捕集時間は8時間おき、空間線量率の上昇が見られた際には1から3時間おき、減少後は24時間おきとした。塵を捕集したろ紙を測定試料とし、ゲルマニウム(Ge)半導体検出器で測定した(図2)。測定時間を1,000から20,000秒とし、放射能標準γ面線源との比較により放射能濃度を算出した。
Ge半導体検出器は、放射線(γ線)がGe結晶を通過するときに生成する電子―正孔を各電極に集めることにより、放射性物質の定性・定量を行う。γ線のエネルギーは核種ごとに固有の値を持つので、γ線スペクトルを解析することにより核種が同定される。Ge半導体検出器の最大の特徴は、優れたエネルギー分解能で、多くの核種を同時に精度良く検出することができることである。

ハイボリウムエアサンプラーの画像

図1 ハイボリウムエアサンプラー

Ge半導体検出器の画像

図2 Ge半導体検出器

3.結果と考察

核分裂生成核種検出前及び検出後のγ線スペクトルを示す(図3、図4)。検出前のスペクトルにおいてもピークが観察される。これは放射性壊変系列のウラン系列(214Bi等)やトリウム系列、40K、宇宙線の相互作用により生じる7Be等、自然放射線が常時ある為である。検出後のものはスペクトル全体が上がっており、131I、132I、134Cs、137Csのピークが観察された。
空間線量率及び大気浮遊塵中の放射能濃度の経時変化を示す(図5、図6)。空間線量率は3月15日5時頃に上昇が見られ、同日10から11時には最大で0.59μSv/hを観測した。その後は2度の増加が見られたが、低下傾向であった。21日から23日の降雨の際に再び上昇が見られた。大気浮遊塵中の放射能濃度についても、空間線量率の変化と相関を示している。15日0時から7時12分まで捕集した試料より事故由来と思われる放射性物質が初検出され、10から11時に捕集した試料で最大値を示した。最大値はそれぞれ131Iが241Bq/m3、132Iが281Bq/m3、134Csが64Bq/m3、137Csが60Bq/m3であった。3月15日以降は空間線量率と同様に低下傾向であったが、21日から23日にかけて再び増加が見られた。3月23日以後現在までの放射能濃度は低下傾向にあり、ほぼ検出限界以下から10-3Bq/m3であった。

検出前のスペクトルの図

図3 検出前のスペクトル

検出後のスペクトルの図

図4 検出後のスペクトル

空間線量率の変化の図

図5 空間線量率の変化

大気浮遊塵中の放射能濃度の経時変化の図

図6 大気浮遊塵中の放射能濃度の経時変化

4.結語

  4月以降、大気浮遊塵中の放射能濃度は低下傾向にあり、6月現在、放射性ヨウ素は検出限界値未満、放射性セシウムは検出限界値前後、と低い状態が続いている。しかし環境中の放射能濃度は原子力施設等の発生源寄与、降水や風向き等気象条件により値が変動する可能性があり、今後も長期にわたり監視を行っていく必要がある。
  都産技研では大気浮遊塵の放射能濃度の測定以外にも都内浄水場上水(金町浄水場、朝霞浄水場、小作浄水場)、農畜水産物の測定も行っている。これらの測定結果については東京都水道局及び産業労働局のホームページを参照されたい。


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