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熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法の異物分析への応用に関する研究

印刷用ページを表示する 更新日:2016年12月19日更新

 

木下 健司[発表者](城南支所)

1.はじめに

  異物分析は、技術相談を端緒とした依頼試験が多く実施される分野の一つであり、その解析には正確さや迅速さが求められるものの、異物となりうる対象は多様であるために広範囲にわたる測定対象を解析しなければならない。現在有機物系異物分析の主流となる手法はフーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)であるが、多くの利点を有する一方、混合物など複雑な試料では解析が困難であることが多いことが欠点である。その為に相補的な分析手法が必要であった。そこで本研究では、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法(熱分解GC/MS)を異物分析に適用するための基礎的検討を行った。

2.方法

  熱分解GC/MSは試料を気化または熱分解させ、分離検出した熱分解生成物をもとに試料の成分を調べる手法であるが、異物分析の様な未知成分の解析を行う際に、測定結果と比較し類似する対象を導くためのデータベースが必要となる。そのために、合成高分子系試料、天然高分子系、生物系、その他低分子系試料等広範囲にわたり約300種を収集して測定を行った。収集したデータは自動検索を行うために、専用ソフトウェアF-Searchに登録した。 

3.結果・考察

  収集した試料の測定結果を登録したデータベースを利用し、測定した未登録試料のデータを自動検索させた結果、類似する対象が候補の上位を占めており、異物特定上の有用性が期待された。例として、血液試料の検索結果を表1に示す。また、潤滑油などの鉱物油系試料ではFT-IRでは複数の試料間の識別は困難であったが、本手法では基油や添加物の分離が行える他、基油自体の識別が可能であった。
  生物試料における試料成分を特徴づける化合物として、動物組織ではコレステロール等のステロイド化合物が特徴的であり、植物組織を有する試料では細胞壁に由来するレボグルコサンや天然の芳香族化合物等が特徴的であった。図1に血液試料のパイログラムを示す。以上より、熱分解生成物のパターンの他に特徴的な化合物を把握することにより、詳細な解析や類似試料との識別が可能であると考えられた。
表1 自動検索結果例(血液)
自動検索結果例(血液)の表

血液試料のパイログラムのグラフ
  図1 血液試料のパイログラム (● 印はステロイド化合物を示す)

4.まとめ

  ゴムやプラスチック等の工業材料のみならず生物系試料等も測定し、幅広く約300種類のデータを蓄積した。以上より、熱分解GC/MSを利用することで、従来FT-IRで行っていた異物分析の解析可能範囲を拡大するとともに、類似試料の識別能力の向上による、正確さや迅速さの改善が期待できる。

 


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