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基調講演 講師インタビュー(化粧品開発)

印刷用ページを表示する 更新日:2020年10月1日更新
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株式会社コーセーの研究員時代に開発を手掛けたリポソーム美容液が 27 年以上に渡って売れ続けています。同社常務取締役研究所長、顧問として後進に指導されてきた内藤昇氏に、「TIRIクロスミーティング2020」基調講演で伝えたいメッセージなどを伺いました。


――内藤様が開発に従事されたリポソーム美容液が、27年間に渡って愛され続けている理由は、どのようなものだとお考えですか。

内藤氏:具体的には「TIRIクロスミーティング2020」の場でお話ししますが、端的に申しあげますと、非常に安全性が高く、なおかつ保湿効果が実感できる、それがサイエンスに裏付けされた非常にファンクショナルな化粧品である点が大きいと思っています。以降、大手化粧品会社を含む、多くのコンペティターが同ジャンルで勝負を仕掛けてきましたが、その都度はねのけて生き残ってこれました。それは多分に業界事情や企業間力学が働いているかもしれませんが、当日(9月11日)はそういったセンシティブなお話もできればと思っています。

内藤氏_画像――それは大変楽しみですね。それでは、基調講演の主題となる、リポソーム美容液の誕生背景についてお聞かせいただけますか。

内藤氏:株式会社小林コーセー(現 株式会社コーセー)は、決して大手ではなかったのですが、業界初の商品群がけっこうあります。例えば、コンパクトなパウダーファンデーションもそうです。実は美容液を最初に業界に上梓したのもコーセーですから、美容液ジャンルにおいて、いかに革新的な商品を生み続けていくかというエネルギーといいますか、開発マインドが非常に高かったのです。

「TIRIクロスミーティング2020」では、製造業の中小企業の皆さまがたくさん来場されると聞いています。そこでお伝えしたいのは、優れた製品を開発するのに組織の規模は関係ないということ。リポソーム美容液は、コーセーという組織があったから成功したのではなく、開発者がこの素材に惚れ込み、情熱を持って進めたから成し遂げることができたのです。開発者が組織を動かすのです。本当に大事なのは開発者の熱意だと思います。

私は、最初にリポソームの電子顕微鏡写真を見た瞬間に魅了されました。とても不思議な形をしていて、“ここから何か、新しいものが生まれるかもしれない”と直感的に思い、そのひらめきから、“何とかしたい”という情熱に突き動かされるかたちで、どんどん発想が広がっていきました。

――開発を進める段階で、何か壁のようなものを感じたことはなかったのでしょうか。

内藤氏:もっとも高いと感じた壁は規制です。リポソームは当時、最先端のドラッグデリバリーシステム、要するに医薬品に使われるような技術を応用していました。ところが化粧品に応用するためには、多くの規制が立ちはだかっていました。それがゆえにほかのコンペティターは次々と脱落していきましたが、私たちには不思議と何とかなるという気持ちしかありませんでした。そして規制のおかげで大変だったけれども、オンリーワンになれました。つまり、規制はピンチではあるのですが、逆にいうとオンリーワンになれるチャンスでもあったということです。

――この27年間、リポソームに匹敵するほどのヒット商品は生まれていないように感じていますが…。その要因をどのように分析されますか。

内藤氏:確かにロングセラー商品が少なくなりましたね。化粧品に限らず、ヒット商品を生み出すのは難しい時代になっています。近年の化粧品業界のトレンドとしては、医薬部外品で皺を改善するというコンディショニング・ツールの誕生がエポックメイキングになってたりします。生化学的なメカニズムの進歩によって、今後も新しい機能的な製品が登場してくるとは思いますが、化粧品的にはあまり楽しくない。楽しくないから、長続きしないし、ロングセラー商品になりづらい。効果を実感している方は多いのですが、ヒット商品にならないのですね。非常に難しいです。

ただ、ひとついえるのは、時代やトレンドなどをあまり意識しすぎなくてもいいのではないかと。ファンクショナルな側面は確かに重要ですが、それ以前に、“化粧品というのは肌と手をつなぐコミュニケーションツールだ”という前提に立って、もっと優れたものができるのではないか?と考えることが大切だと思います。そして、開発者が「良いものは良い」と信じて作りこみ、そう言い切れるだけの根拠を用意しておくことが必要です。周りを巻き込む情熱と化粧品に対する愛着、この二つが新たなビジネスチャンスを生むのではないかと思っています。


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