PBII&D法によるDLC成膜とその摺動特性

印刷用ページを表示する 更新日:2016年12月19日更新

川口 雅弘[発表者](高度分析開発セクター)

1.はじめに

  DLC(Diamond-Like Carbon)膜は、主として工具・金型や各種摺動部品などの表面改質膜として、世界中においてその認知度が十分高まってきている。日本でもその市場規模が年々増加しており、2010年時点での受託加工市場規模は約80億円(2002年比で4倍以上)となっている。一方、DLC膜はPVD、あるいはCVD技術を用いて成膜することが一般的であるが、近年注目を浴びているのがプラズマイオン注入成膜法(Plasma Based Ion Implantation and Deposition; PBII&D)である。本研究では、PBII&D法により成膜したDLC膜の摺動特性について検討した。

2.実験方法

  SKH51試料表面に対して、PBII&D法を用いてDLCを成膜した。PBII&D装置の概略を図1に示す。PBII&D法の特徴として、(1)低温処理(50℃まで)が可能である、(2)イオン注入効果が得られる、(3)複雑形状物の均一処理が可能である、などがあげられる。DLC膜の確認はラマン分光分析を用いた。成膜した試料の乾式ボールオンディスク試験を行い、摩耗痕のラマン分光面分析を行った。

3.結果・考察

  ボールオンディスク試験を行ったところ、摺動初期は0.15程度の摩擦係数を示したが、徐々に摩擦係数は低下し、最終的には0.07から0.08程度で安定した。これは、摺動に伴うなじみ効果の影響と考えられる。摺動表面を観察すると、若干の摩耗痕が確認されたが、概ね良好な表面であった。摩耗痕のラマン分光面分析を行い、芳香族六員環に起因するGピーク、無秩序成分であるDピークについて検討した。摩耗痕のラマン分光面分析(Gピーク半値幅)の結果を図2に示す。図2より、摩耗痕の中央部はGピークの半値幅が小さく、外側に向かうに従って半値幅が大きくなる傾向が現れた。Gピークの鋭敏化(半値幅が小さくなること)は、六員環構造の整列性向上と強い相関を示すことから、摩耗痕の中央部では、摺動によりDLC膜の六員環構造の整列化が起こっていると考えられる。一方、摩耗粉のラマン分光分析結果より、同様にGピークの鋭敏化が確認できたことから、DLC膜の六員環構造の整列化が、低摩擦係数発現に大きく寄与することが示唆された。

PBII&D装置の概略
図1 PBII&D装置の概略

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図2 摩耗痕のラマン分光面分析(Gピーク半値幅)